医師が「医療は配管工事と同じ」と教える納得の訳 自然を深く知ることで治療方法が見えることも
標準的な心電図の12本の電極は心筋の中を走る電気信号を記録し、それぞれが心臓の別の部位を表している。心組織への血流が止まると、電気活動の混乱が心電図のジグザグの線に現れるが、重要なのは、それが全体的なのか部分的なのかを判断することだ。
胸痛を訴える患者の心電図を見たら、最初にこう考える。その混乱が起きているのは、どこの場所か。問題が冠動脈の1つの流域内だけで起きていれば、患者の胸痛は些細な原因からではなく、おそらく心臓発作で引き起こされたのだ。
配管工も医師も大局的に眺める
配管システムの問題解決テクニックと同じように、また山の中を旅するように、地形と分岐する水の流れを熟知することは不可欠だ。
カテーテル治療をおこなう心臓専門医も、冠動脈にカテーテルを挿入して心臓発作を起こした犯人である血栓までたどっていくときに同様の技巧を発揮する。心臓専門医は分岐ごとにどちらに曲がればいいのかを知っているので、どんどん細い血管に入りこんでいき、造影剤が停止している箇所までたどり着けるのだ。
きわめてやっかいな配管の問題の解決や命にかかわる病気の治療をし、人里離れた深い山を進んでいくとき、配管工も医師も旅人も流れのほとりに立ち、相互につながる流れや枝分かれする水路を大局的に眺めなくてはならない。すべてはその流域を理解するためだ。
ただし人体の血流は、地上の水路や建物の下水管とはある重要な点で異なっている。大地からの排水は大きな川に合流して網状三角州を作り、旅の最後に海へ到達する。
同じように、建物の配管システムからの流出物は太い管に流れこみ、最後に汚水処理場という終点に着く。しかし、血液はちがう。心臓から出ると、無限に分岐する血管を流れて、全身のあらゆる細胞と出合ってから、ふたたび太い血管に合流する。そして最終的に旅が始まった場所である血液の三角州に、人体の真の中心である心臓に戻ってくるのだ。
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