トレンドマイクロ、世界首位陥落で迎える正念場 サイバーセキュリティー業界で相次ぐ再編

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通常はEDRとは別に契約する運用支援(MDR)を、自社で一体で提供するセット販売を推進し、相対的にコスト競争力を高め、一気に高いシェアを勝ち取った格好だ。

こうした状況に対し、トレンドマイクロも決して指をくわえていたわけではない。

従来の「アンチウイルスソフトの会社」という評判を覆すべく、法人向けのウイルスバスター コーポレートエディションを廃止し、「エーペックスワン」と製品名を変えてリブランディングを行ったほか、2015年からEDR製品「エンドポイントセンサー」を投入するなど積極的に製品を投入した。

ところが、ウイルスバスターでの圧倒的な成功が足を引っ張り、EDR製品の浸透が遅れた。「トレンドマイクロの製品の評判は決して悪くなかったが、従来型のオンプレミスの顧客基盤が大きすぎて、切り捨てることはできなかった」と、複数の業界関係者は指摘する。

またサイバーリーズンのように「EDRとMDRをセット売りしたベンダーに対して、価格面で太刀打ちできなかった」(別の関係者)とも指摘される。

どちらにしても結果的に、EDRに強みを持つクラウドストライクやサイバーリーズンの台頭を許した格好だ。

再編で激変する業界地図

EDRの台頭と同時に、業界地図も大きく変化している。とくに目立つのが個人向けと企業向け事業の分社や再編だ。

その理由を、あるセキュリティーベンダーの首脳は「一般論だが個人向けのアンチウイルスソフトの方が安定していて儲かる。企業向けはアンチウイルスソフトを安く提供し、EDRなどセット売りの製品で稼ぐ構造だ。企業向けは開発や営業の競争が厳しく、あまり儲からない」と説明する。

アンチウイルスソフトでトレンドマイクロとともに、一世を風靡したシマンテック(ノートン)は、法人事業を半導体大手ブロードコムに売却。残った個人向け事業(旧ノートンライフロック)は2022年にチェコの同業アバストソフトウェアを統合し、ジェン・デジタルに社名を変更した。

同じく著名だったマカフィーも半導体大手のインテル傘下を経て再上場したが分割された。2021年に投資ファンドのシンフォニー・テクノロジー・グループに法人部門を売却。シンフォニー・テクノロジーは、同じくサイバーセキュリティー企業であるマンディアントの製品部門を買収し、マカフィーの法人部門と統合。2022年に新会社「トレリックス」として再スタートを切った。

残ったマカフィーの個人部門も別の投資ファンドに約140億ドル(2兆円弱)で買収され、上場廃止になっている。

一方、セキュリティーの業界で存在感を高めているのがマイクロソフトだ。法人向けの「マイクロソフト・ディフェンダー・フォー・エンドポイント」で強力なEDR機能を提供するほか、今後5年間でセキュリティー関連の研究開発に200億ドルの投資を表明するなど、事業強化に余念がない。

OSやクラウド基盤という根幹を握っているうえに、圧倒的な資金力を誇るマイクロソフトが本気を出せば「関連する企業がバタバタと死ぬのは繰り返されてきた風景。なんとか棲み分けを図りたい」(別のセキュリティー製品企業の担当者)とため息が漏れる。

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