マスク氏買収のツイッターを欧州が超警戒する訳 来年5月からビッグテックに「DMA」が適用
とくにEUが恐れていることの1つは、SNSが言論をミスリードした結果、例えば、ポピュリズムが爆発的に拡大したり、EU加盟国間を分断するヘイトスピーチが拡散したりして、政治ガバナンスが困難になることだ。その兆候は選挙があるたびにすでに表面化している。
EUはアメリカ大統領選でトランプ前大統領支持者が連邦議会に乱入した姿を見て、ヨーロッパでもSNSが一部の過激な勢力によって悪用されれば、民主主義を破壊する言論が形成されるリスクは十分ありうると見ている。EU加盟27カ国は多様性のシナジー(相乗効果)を引き出すことで国際社会にインパクトを与えると信じている一方、多様性のデメリットである意見対立による分断や、EU統合の深化拡大を困難にするリスクもある。
過去に全体主義の嵐が吹き荒れ、共産主義によって東西が分断された経験を持つヨーロッパは、言論の深刻な対立がもたらす分断の悲劇を、身をもって体験している。実際、この秋にはEUの第3の大国イタリアでファシスト党の流れをくむ政党が政権を獲得し、EUは危機感を強めている。今や既存のマスメディア以上に世論形成に影響力を持つといわれるSNSに、EUはアメリカ以上の危機感を持っている。
さらに近年のイスラム過激派によるテロの頻発にも、SNSによるイスラム聖戦主義の拡大、テロリストのリクルートへの利用は目を見張るものがある。これも国家と社会に決定的ダメージを与える無視できない問題だ。国際テロ組織は最大限、SNSを活用し、聖戦主義の浸透に余念がない。マスメディアに触れない若い世代へのSNSの影響は非常に大きい。
ヨーロッパが抱えている課題
本来、EU統合を根底で支えたのはドイツのメルケル前首相に代表されるキリスト教民主主義だったが、東西冷戦終結以降、人々から信仰が失われ、ヨーロッパの価値観の共有は困難な状況にある。
イギリスも2021年に実施された国勢調査の結果、イングランドとウェールズで「自分はキリスト教徒」と答えたのは46.2%で10年前の調査より10ポイント下がり、半数を割り込んでいる。
ヨーロッパは今、言論の自由、企業活動の公正さを守りながらも、21世紀の新しいコミュニケーションツールを運用するGAFAMを有効活用するため、そこに忍び寄る有害性をどう排除するかに取り組んでいる。これはツイッターを手にしたマスク氏にとって大きなストレステストになるといえそうだが、アメリカや日本での規制強化にも影響を与えそうだ。
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