日本の高1が妙に解けない「科学の問題」に見る盲点 日本の教科書には載っていない大切なこと

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今の日本はどうなっているかというと、日本には自衛隊があります。自衛隊は志願兵制度で、入りたい人が入っているわけです。徴兵制度、南北戦争の北軍、志願兵制度の3つのうちどれが一番いいですかと言われたら、志願兵が一番いいと皆さんは言うのです。徴兵制度で全員が入隊などとんでもないし、お金を払って身代わりになってもらうのもとんでもない。なので、志願兵でいいのではないか、この制度が一番いいではないかと皆さん言うのです。

しかし、よく考えてみてください。自衛隊というのは、日本国民がお金を払って身代わりを雇っていることと同じことでしょう。入隊したくない人が自分たちの税金を使って、自衛隊の人にお金を払っているわけですから、カーネギーたちと同じことをやっているんじゃないですかというわけです。

すなわち考え方を変えると、「そうか、自衛隊もカーネギーと同じことなんだな」ということになります。こういう話を聞くと、石浦もいいことを言うなと思いませんか? 残念ながら、これは私の考えではないのです。アメリカのマイケル・サンデルさんというハーバード大学教授の意見なんですが、ここで大事なことは、違う方面から物事を見ると違うように見えるということです。

知識を上手に使うために必要なこと

また、理科教育で大切なのは、学習が能動的でないといけない、ということです。大事なことを生徒にきちんと覚えてもらわなくてはならないからです。自分からこれを知りたいと思わないと、頭に入らないのです。

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科学リテラシーを試験するのはなかなか難しいのですが、実際の日本の試験は、暗記能力を確かめることが主になって、面白くなくなってきたところが問題なのです。知識はそのままに記憶するのではなく、いろんな知識をつなぎ合わせることが大事です。既存の知識から新たなネットワークを構築することが大事なんですね。実はこれが「知能」なのです。

つまり、ただ与えられたことを覚えるだけでは何にもならない。それを上手に使わなければいけない。「これは全然違う知識だが、こちらにも使える」などと、多方面に使えるということに気が付かないといけないわけです。

ジャン・ピアジェという心理学者はこういうことを言っています。「人間の認知能力は段階的に得られる」。すなわち、小学生にいきなり難しいことを言ってはいけなくて、小学生、中学生、高校生というように段階的に能力が発達してくるので、それに応じた教育をしなければいけないことになるのです。

科学教育もそうです。中学生は中学生に、大学生は大学生に必要な科学リテラシーをちゃんと持ってください、ということなのです。

石浦 章一 東京大学名誉教授

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いしうら しょういち / Shoichi Ishiura

1950年石川県生まれ。東京大学教養学部卒業。同大学院理学系研究科相関理化学博士課程修了。専門は分子認知科学、サイエンスコミュニケーション。東京大学名誉教授、新潟医療福祉大学特任教授、京都先端科学大学特任教授、同志社大学客員教授。近著には『理数探究の考え方』(筑摩書房)、『サイエンスライティング超入門』(東京化学同人)、『小説みたいに楽しく読める生命科学講義』(羊土社)など。編著や訳書も多数。

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