日本の高1が妙に解けない「科学の問題」に見る盲点 日本の教科書には載っていない大切なこと

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一方、日本の教科書は事実しか書いていない。だから、日本人はこの事実しか覚えない。結論としては、やはり理科教育のやり方自体が悪いのではないかということになるのです。

日本の生徒は「知識を応用する思考」が苦手

ここでPISA(Programme for International Student Assessment)の話をしましょう。これは高校1年生を対象にした国際学力調査のことです。例題を紹介します(下図)。

「温室効果 ─ 事実かフィクションか」という課題文を読んで、次の3つの問いに答えてください、という問題です。

(外部配信先では図表などの画像を全部閲覧できない場合があります。その際は東洋経済オンライン内でお読みください)

(出典:CSTI Environmental information Paper 1,1992.)
問1:太郎さんの結論は、グラフのどのようなことを根拠にしていますか?

どうでしょうか? 図の左のグラフは、時間経過に応じた二酸化炭素排出量です。右のグラフは地球の平均気温です。左と右、だいたい似てますよね。よく似ているから、太郎さんはこの2つのグラフから地球の平均気温が上昇したのは、二酸化炭素排出量が増加したためであるという結論を出しました。これが根拠ですね。

問2:花子さんという別の生徒は、太郎さんの結論に反対しています。花子さんは、2つのグラフを比べて、グラフの一部に太郎さんの結論に反する部分があると言っています。
グラフの中で太郎さんの結論に反する部分を1つ示し、それについて説明してください。

太郎さんの結論に反する部分はいろいろあります。例えば、平均気温が下がったときに二酸化炭素排出量が上がっているところがある。だから、左と右のグラフは必ずしも一致してないということを花子さんは言っているのですね。

問3:太郎さんは、地球の平均気温が上昇したのは二酸化炭素排出量が増加したためであるという結論を主張しています。しかし花子さんは、太郎さんの言うような結論を出すのはまだ早すぎると考えています。花子さんは、「この結論を受け入れる前に、温室効果に影響を及ぼす可能性のある他の要因が一定であることを確かめなければならない」と言っています。花子さんが言おうとした要因を1つあげてください。

これはとても難しい問題です。日本の生徒が一番よくできたのは問1で、正解率69.3%。これが調査した国の中で3位の正解率です。

問2については正解率54.3%で、順位は1位です。

だから問1と問2は非常によくできているのですが、問3ができていないのです。問3は何と正解率17.6%で、29位です。他の2つがちゃんとできているのに、問3ができていないということは、何かを考えることが苦手だ、ということになります。

このような結果を受けて、OECDは「日本の生徒はさまざまな科学分野にわたり素晴らしい基盤知識を備えているが、初めて出会う状況で知っていることから類推し知識を応用する必要がある場合や、問題と取り組む前に科学的問題を特定し、組み立てる必要がある場合には成績が下がる」と言っています。端的に言って、日本人は馬鹿にされているのです。問3が特にできていないからです。

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