水族館の超人気者「イルカ」たちの過酷すぎる生涯 イルカ飼育大国・日本に住む私たちが知るべき現実

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水族館で飼育されているハナゴンドウ(@Life Investigation Agency/Dolphin Project)

もちろん野生であれば、天敵がいるうえ、混獲、船との衝突で命を落とすこともあるわけですが、それでもこうしたデータを概観する限り、野生と飼育環境下では、これだけの寿命の差がある可能性があるということです。

実際、各地の水族館の公表などを見ると、若くして病気や原因不明の体調不良で死亡しているケースも散見されます。

たとえば、上越市立水族博物館「うみがたり」では、2018年と2019年に7歳と8歳のハンドウイルカ2頭が死亡し、2020年には、13歳のベルーガ2頭が相次いで死亡しました。イルカが連続死したことを受けて、検証委員会による調査が行われました。その結果、観客からの見栄えを良くしようとし、寒暖差が大きいなどイルカに負担を強いる環境で飼育していたことが死亡原因につながった可能性があると結論づけられています。

同水族博物館を所管する上越市教育委員会は、相次ぐ死亡を受けて、日よけや防風設備を設置したり、健康状態の定期検査の頻度を上げるなどの対策を施していると、東洋経済の取材に対して回答しています。

こうして対策を取る水族館がある一方、どうぶつの健康状態について、意識が薄いと思われる水族館のケースもあります。

「私が水族館に勤務したのは1年少しの間ですが、その間、イルカが病気で何頭も死亡しました」

そう証言するのは、かつてある大手水族館でドルフィントレーナーをしていたAさんです。

「狭いプールの中で、餌の取り合いや喧嘩は日常茶飯事で、ストレスからと思われるイジメや争い事もよく目にしました。多くのイルカの死に立ち会いましたが、獣医師からは、胃潰瘍が死因だと言われました。イルカでも胃潰瘍になるんだと衝撃を受けました」

Aさんは、イルカが狭いプールに閉じ込められていたことにも心を痛めていました。

「野生では起こりえない、種類の異なるイルカを狭いプールで飼育しており、穏やかな気質の種類が餌をもらい損ねることもありました」

Aさんは結局、体調が悪いイルカでもショーをさせようとする経営者と意見がぶつかって退職し、以後、ドルフィントレーナーの仕事にはついていません。「好きで選んだ職業でしたが、私が思い描いていた業界ではなかった」とAさんは語っています。

生体販売ビジネスとしての「イルカ追い込み猟」

このようにイルカを扱うような姿勢は、和歌山県太地町で今も盛んにおこなわれているイルカ猟からも感じ取れます。

前回記事でもふれたとおり、太地町では「追い込み猟」という、世界的にも残酷と批判される方法でイルカを捕獲しています。捕獲されたイルカのうち水族館での展示に適した個体が、地元水族館のドルフィントレーナーらによって選ばれ、国内や海外の水族館へ生きたまま「生体販売」されます。生体販売に向かない個体はここで殺され、食用になり、スーパーなどで出回ります。

水族館用に選ばれなかったイルカは屠殺され食肉加工される。(@Life Investigation Agency/Dolphin Project)
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