ネタニヤフ首相は何を目指しているのか ワシントンにやってきた理由

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このような考えは、イスラエルの近代国家以前から存在している。19~20世紀の欧州人の国家主義者は、しばしば米国を、資本主義と故国への忠誠心を持たない「根なし草のコスモポリタン」のための家と見なしてきた。米国ではお金がすべてを支配する、つまりユダヤ人が支配すると考えられていた。

反ユダヤ主義者は、ソビエト連邦の糸もユダヤ人が引いていると信じていた。資本主義者であれ共産主義者であれ、ユダヤ人はユダヤ人以外に対してはいっさい忠誠心を持たないと広く信じられてきた。1948年以降、これはしだいにイスラエル国家を意味していった。あらゆる場所に住むすべてのユダヤ人の指導者を名乗ることで、ネタニヤフ氏はこのような考えを強めたにすぎない。

米国はつねに親イスラエルではなかった

実際、米国が今日のようにつねに親イスラエルだったわけではない。ド・ゴール仏大統領が1967年の6日間戦争(第3次中東戦争)の後、ユダヤ国家に背を向けるまでは、フランスはイスラエルの最大の支持者であった。それに続く米国のイスラエル支援は、聖地への福音的情熱やユダヤ人に対する自発的な愛とは関係がなく、冷戦との関連によるものである。しかし時間が経つにつれ、特に保守的な政治演説の中で、イスラエル批判は単なる反ユダヤ主義ではなく反米国主義とも見なされるようになっていった。

現在、米国大統領を公に攻撃しようと試みることで、ネタニヤフ氏はこの絆を断とうとしている。

これをイスラエルの失態と見る人もいるかもしれない。実はその逆が真実かもしれない。ビビの無分別なワシントン訪問は、イスラエルにとって最善の出来事かもしれない。どちらの国も、他方の駒と見なされることは望んでいない。そして同盟国に対する米国のより厳しい姿勢は、イスラエル人にパレスチナ人と折り合いをつける一層の努力を強いることになるかもしれない。

これはネタニヤフ氏が意図したものではない。しかし彼が成し遂げた最大の成果にならないとも限らない。

週刊東洋経済2015年3月21日号

イアン・ブルマ 米バード大学教授、ジャーナリスト

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Ian Buruma

1951年オランダ生まれ。1970~1975年にライデン大学で中国文学を、1975~1977年に日本大学芸術学部で日本映画を学ぶ。2003年より米バード大学教授。著書は『反西洋思想』(新潮新書)、『近代日本の誕生』(クロノス選書)など多数。

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