「悪質なブリーダーを排除できず」法改正の問題点 「数値規制」より「資質」で精査すべきではないか

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具体的には、飼養施設の設備の規模に関する事項(ケージのサイズなど)は今年6月から施行、従業員数に関する事項(1名あたりの頭数の上限)も、犬30頭(うち繁殖犬25頭)、猫40頭(うち繁殖猫35頭)となりました。2023年6月にも5頭ずつ減らし、完全施行される2024年6月には、犬20頭(うち繁殖犬15頭)、猫30頭(うち繁殖猫25頭)となります。

第二種動物取扱業者(営利性のない動物取扱のうち、飼養施設を設置し、動物の譲渡、保管、貸し出し、訓練、展示を業として行うもの)は2023年6月から段階的に減らし、2025年6月に完全施行されます。

なお、新規事業者に関しては、2021年6月に完全施行となっています。

今回の基準省令は飼育環境に関する規制が大きく、施行により業を継続できるのは、もともとその数値以上の飼育環境を整えている“健全なブリーダー”か、飼育環境を改装したり従業員を雇えたりするだけの“資金力のあるブリーダー”ぐらいといわれ、それができずに廃業したブリーダーが一定数いると聞いています。

その結果、現在は規制を遵守した優良なブリーダーが業を営んでいるように見えますが、実際は、いまだ悪質なブリーダーは存在しています。

それは、前述した2つのケースでもわかるように、犬や猫に愛情がない、責任を持たない、モラル(倫理や道徳感)がない悪質なブリーダーでも、資金力さえあれば数値規制という壁はすんなり超えられるからです。表向きは体裁を整え、裏で利益ばかりを追求するブリーダーがまだ存在しているというわけです。

そのようなブリーダーのもとで過ごす犬や猫が幸せであるとは言いがたく、まして、愛情をかけて育ててもらっているとは到底思えません。数値規制で経費がかさんだぶんを取り戻そうと、法の抜け道を考えることもありうるわけで、数値規制はあくまでも悪質なブリーダーを排除するための1つの要素でしかないのです。

そもそも「数値規制」は守られるか

これは、数値規制をすべてのブリーダーが遵守していることを前提にしていますが、実際のところどうなのでしょうか。

筆者は複数の県に在住するブリーダーに「今年6月からケージのサイズや、1人当たりの飼育頭数などの数値規制が施行されたが、自治体からの通達や内見などがあったか」を質問してみました。

その結果、北海道札幌市、青森県、埼玉県、神奈川県、静岡県、富山県、滋賀県、和歌山県のブリーダーからは、「とくに通達はないし、いまだ内見もない」、東京都、愛知県名古屋市のブリーダーからは「郵送で通達はあったが、いまだ内見はない」との回答でした。熊本県のブリーダーは「すべてのブリーダーに行っているかは不明だが、7月に通達があり、内見に来た」、兵庫県のブリーダーは「抜き打ちで内見をしているらしいとの情報がある」との回答がありました。

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