停戦交渉への機運醸成に失敗したプーチン大統領 現段階での停戦交渉は時期尚早だ

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ヘルソン撤退でロシアでは、プーチン氏への保守派からの批判が高まっている。プーチン政権としては、軍立て直した後に侵攻を再開し、再び占領地を拡大することで国民からの求心力を高め、政権維持を図る狙いとみるのが妥当だろう。

戦争中の時期尚早な外交は誤り

こういう中で今、停戦交渉に入っても、ウクライナや米欧や日本が望む「公正な平和」につながる可能性はゼロだろう。11月16日付の米外交誌『フォーリン・ポリシー』で同誌コラムニスト、ジェームズ・トラウブ氏が発表した論文「ロシアとの交渉は心動かされるが、誤り」の中での指摘を紹介したい。

「戦争中の時期尚早な外交は誤りである」。この指摘通り、ウクライナがこのまま反転攻勢でさらなる領土奪還を実現できるよう支援を続け、プーチン氏を侵攻停止と完全撤退に追い込む。これこそ、国際社会が進むべき道だろう。

2022年11月15日、ロシア製ミサイルがウクライナに隣接するポーランド東部に着弾、2人が死亡した件にも触れたい。一時は北大西洋条約機構(NATO)加盟国であるポーランドに対するロシアの攻撃かとの懸念が広がったが、アメリカは着弾したのはウクライナの迎撃ミサイルであるとの見方を示している。

ゼレンスキー氏は当初、ウクライナのミサイルであることを強く否定して、アメリカとの間での摩擦発生かとの見方も出たが、ウクライナの軍事筋はこれを否定している。ゼレンスキー氏はウクライナのミサイルと確定すれば、謝罪する用意も表明しており、いずれ謝罪に踏み切り、外交問題に発展する可能性はないと指摘している。アメリカやポーランドも根本的責任があるのはロシアだとしており、隙間風が吹くことはないだろう。

いずれにしても、今回のミサイル問題の要因として挙げられるのは、ゼレンスキー大統領のウクライナ軍部への気遣いだ。ヘルソン奪還で勝利を祝った直後に持ち上がったこの問題発生を受け、大統領としては高揚している軍の士気を落とさないことを最優先したといわれる。そのあたりはバイデン政権も、ポーランドも理解しており、ゼレンスキー政権を窮地に追い込まない形で事態の収束を図ることになるだろう。

吉田 成之 新聞通信調査会理事、共同通信ロシア・東欧ファイル編集長

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よしだ しげゆき / Shigeyuki Yoshida

1953年、東京生まれ。東京外国語大学ロシア語学科卒。1986年から1年間、サンクトペテルブルク大学に留学。1988~92年まで共同通信モスクワ支局。その後ワシントン支局を経て、1998年から2002年までモスクワ支局長。外信部長、共同通信常務理事などを経て現職。最初のモスクワ勤務でソ連崩壊に立ち会う。ワシントンでは米朝の核交渉を取材。2回目のモスクワではプーチン大統領誕生を取材。この間、「ソ連が計画経済制度を停止」「戦略核削減交渉(START)で米ソが基本合意」「ソ連が大統領制導入へ」「米が弾道弾迎撃ミサイル(ABM)制限条約からの脱退方針をロシアに表明」などの国際的スクープを書いた。

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