停戦交渉への機運醸成に失敗したプーチン大統領 現段階での停戦交渉は時期尚早だ

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一方で、停戦交渉をめぐってはアメリカ国防総省最上層部内での意見対立が突如として明るみに出て、バイデン政権内は大騒ぎになった。アメリカ軍制服組トップのミリー統合参謀本部議長が11月9日、ウクライナによる全領土回復の軍事的実現は無理との認識を示したうえで、ウクライナにロシアとの交渉解決を呼び掛けたのだ。その根拠の1つとしてミリー氏は、冬季に入ると気象的にウクライナの反転攻勢が難しくなるとの認識も挙げた。

この突然の「交渉呼び掛け」発言は、ウクライナや米欧の外交専門家などに大きな驚きと戸惑いを与えた。ウクライナによる「領土の一体性回復支持」「交渉の是非や交渉開始の時期はウクライナが決めるべき」とのバイデン戦略の大方針と食い違うためだ。

4項目の対ウクライナ方針は不変

ミリー発言のタイミング自体も微妙だった。アメリカ政権がウクライナに対し、プーチン氏個人との交渉を断固拒否する姿勢をやめるよう、やんわりと要求し、これをゼレンスキー氏が受け入れた直後だったからだ。それだけに、この発言を受けウクライナや国際社会では、バイデン政権がプーチン政権との何らかの妥協を図る方針に転換したのではないかとの疑念を招いた。

そのためホワイトハウスは、素早く火消しに走った。アメリカのサリバン国家安全保障問題担当大統領補佐官は11月11日、記者団に対し4項目からなるアメリカ政権の基本方針を提示し、対ウクライナ戦略に変化がないことを明確にした。4項目とは、①交渉の時期や方法はウクライナが決める、②国連憲章に基づいた主権と領土の一体性回復、③力によるウクライナ併合を進める今のロシアを誠実な交渉相手とみなさない、④戦場でウクライナが優位に立てるよう、軍事支援を行う―というものである。

とくに注目されるのは、この説明の中で、補佐官が4項目方針全体を貫く精神を「a just peace(公正な平和)」と呼んだことだ。先進7カ国(G7)が提唱したもので、侵攻の被害国であるウクライナの主張に沿った和平を追求するという考えである。交渉による何らかの妥協を示唆したミリー発言と相いれないものだ。

バイデン政権による火消しはこれでは終わらず、さらに念の入ったものになった。11月16日にミリー議長と共同記者会見を行ったオースチン国防長官が、冬季は軍事作戦の継続が難しくなるとの議長発言を真っ向から覆す見解を示したのだ。長官は「冬になり、地面が凍れば、ウクライナ軍の活動は増加するだろう」と述べたうえで、ロシアの侵攻が真冬の2月24日に始まったことにも言及した。これを横で聞いていた議長にとっては面目丸つぶれの発言だった。

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