新幹線は地方創生に役立っているのか 利益を大都市に吸い取られるだけ?

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しかし、実は、目に見えない地域間のストロー効果もあります。それは大都市資本が地方にどんどん進出し、「地方市場をどんどん席巻していくという構造」です。

その3  目に見えない資本ストロー効果を防ぐため地元資本投資を行う

わかりやすいのは、新幹線の主要駅における駅ビル開発でしょう。その際、駅ビルのテナントを見るとわかるように、東京や大阪資本の百貨店や、大型チェーンストア企業ばかりです。

これは何を意味するでしょうか。大都市資本企業の地方都市進出は、地元にとっては一見利便性が高まります。人が集まり、事業所数も増加し、雇用も拡大し、歓迎されるべき話に見えます。しかし大都市資本の進出が進めば、その地域から生まれた利益は、結局、チェーンを通じて、大都市へと吸い上げられるのです。

では、指をくわえて見ているしかないのでしょうか。そんなことはありません。例えば、鹿児島中央駅前では、地元の事業者によって「かごっまふるさと屋台村」が経営されています。若手経営者を中心に切磋琢磨しており、とても活気を帯びています。新駅周辺に形成される、新しい市場に対しては、小規模でも地元事業者が商機を見出して投資することは極めて大切なのです。

大都市間の高速・安定・大量の輸送を可能にする新幹線は、国家単位での生産性改善にはさまざまな面で合理性があると思います。一方で、地方にとっては明確な活用方法を独自に考え、対策を打たなくては、逆効果になることもあるのです。

新たな産業や拠点の作り方、まちのあり方を考える機会となれば、新幹線を活用することも十分に可能でしょう。観光産業での活用もありますが、ありきたりな観光イベントやツアーだけでは不十分です。見てきたように、独自のターゲットを定めた営業、新幹線と在来線だけでない独自の交通補完、さらに地元資本での投資が成功の「必須3条件」です。

もう一度言いますが、重要なのは「新幹線を作ることではなく、使うこと」です。活性化の起爆剤などという言葉に踊らされず、自分の地元は何で飯を食っていくのか、それにはどう使えるのか、という独自の考えと具体的な取り組みが問われています。これは、新幹線に限らず、あらゆる地方活性化事業に言えることでもないでしょうか。

◯ 参考資料

鯉江康正「全国都道府県間産業連関表による地域間産業連関構造の分析」

内閣府「県民経済計算(平成23年度)」

日本政策投資銀行「北陸新幹線金沢開業による石川県内への経済波及効果」
 

木下 斉 まちビジネス事業家

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きのした ひとし / Hitoshi Kinoshita

1982年生まれ。高校在学時からまちづくり事業に取り組み、2000年に全国商店街による共同出資会社を設立、同年「IT革命」で新語流行語大賞を受賞。

早稲田大学政治経済学部政治学科卒業、一橋大学大学院商学研究科修士課程修了。

2008年に設立した熊本城東マネジメント株式会社をはじめ全国各地のまちづくり会社役員を兼務し、2009年には全国各地の事業型まちづくり組織の連携と政策提言を行うために一般社団法人エリア・イノベーション・アライアンスを設立。2015年から都市経営プロフェッショナルスクールを設立し、既に550名を超える卒業生を輩出。2020年には北海道の新時代に向けた「えぞ財団」を仲間と共に発足している。また内閣府地域活性化伝道師等の政府アドバイザーも務める。

著書に『まちづくり幻想』『稼ぐまちが地方を変える』『凡人のための地域再生入門』『地方創生大全』等多数。

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