「アメリカの原発は2030年には減少する」 リチャード・レスターMIT教授に聞く
――長期的な米国の原子力政策のあり方についてはどう考えているか。
オバマ大統領らは、2050年までにCO2を80%削減することに目標を置いている。現状を見る限り、私の判断では今の約20%という原子力の電源構成比率を大幅に上昇させることなく達成はできない。むしろ今後10~15年を考えると、廃炉の予定もあり、原子力の比率は低下が見込まれる。米国内の原発新設計画は、CO2削減目標を達成するために必要とされる数をはるかに下回っている。私の関心は、このギャップをどう埋めていくかにある。
現在、原発の新設を妨げている要因は主に経済面にある。短期的には天然ガスとの競合だ。相対的にコストの安い天然ガスがだぶついていることもあり、ガス火力が電源として選択されている。ただ、CO2削減目標を達成するには、長期的に天然ガスの使用は減らしていく必要がある。同時に、(原子力と同じくCO2排出の少ない)再生可能エネルギーとの共存と、そのための電力市場の構造改革が重要となる。
私が考える原子力とエネルギーに関する優先的政策は3つ。第1に廃棄物への対応、第2にCO2削減目標達成への対応、第3に原子力技術におけるイノベーション戦略だ。今後15年、20年先を考えれば既存の原子炉は徐々に減っていくため、競争力のある新しい原子力の技術が必要となる。
――日本においても、CO2削減と技術的イノベーションにおける原子力の役割に対する重要性は認識されているが、安全性とともに廃棄物処理の問題が反原発の大きな理由となっている。米国における廃棄物問題の現状はどうか。
米国における放射性廃棄物の管理については、過去何十年間もうまくいっていないことは明らかだ。1987年に政府はネバダ州のヤッカマウンテン(Yucca Mountain)を高レベル廃棄物処分場(直接処分)の候補地として定めながら、その後ほとんど進捗が見られなかった。と同時に、代替候補地についても検討もされないままにきており、両面で最悪の事態となっている。
ただ、現状は少し変化の兆しも見られる。まず、一つは米国内の少なくとも2~3の地域が処分場の候補地として関心を示していること。二つ目に、ヤッカマウンテンの計画は現政権により撤回されたが、将来、選択肢として再浮上する可能性があること。三つ目に、新しいアイデアが廃棄物処分の技術において出てきたことだ。特に私のいるMITにおいて過去30年間研究が続けられており、これまで以上の深度での地層処分や燃焼による減容技術に期待が持たれている。
CO2削減には炭素税導入で適切な価格付けを
――ゼネラル・エレクトリック(GE)のジェフ・イメルト会長兼CEOも「原発は経済的に正当化するのが難しい」などとメディアに語っている。昨年来の原油価格急落の原因ともなった米国のシェール革命が米国の原子力、エネルギー政策に与える影響をどう見ているか。
確かに短期的には、原子力は競争力を失っているかもしれない。100万BTU(英国熱量単位)当たりの天然ガス価格は日本では14ドル前後だが、米国では4ドル前後であり、この価格水準では原子力はコスト的に劣勢にある。
しかし、天然ガスではCO2削減の目標は達成できない。シェールガスが十分に供給され、電力用、産業用、輸送用、輸出用のすべてを賄えたとしても、CO2の80%削減目標を満たすことはできない。そのため、長期的には、炭素税導入による適切な価格付けが必要になってこよう。天然ガス価格が今の倍の8ドルになれば、ガスに対する原子力の競争力が高まると考えられる。
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