池上彰氏が解説「聖書を知らないと損をする訳」 世界情勢を知るうえで押さえたい前提知識

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これだけの巨大な船を、ノアの一族だけでどうやって建造できるのだろうと思ってしまうのですが、遂に箱舟は完成。あらゆる動物を収容し、ノアの一族が乗り込むと、扉を閉めて閉じこもります。

その直後、大雨が降り出し、40日間降り続けます。地表は水に覆われ、地上のあらゆる生き物は死に絶えてしまいます。

雨が止んだ後も110日間にわたって水は引きませんでしたが、やがて水は引き、ノアの一族は船から出ることができました。そのノアに対し、神は、二度と洪水によって地を滅ぼすことはないと約束します。

こうしてノアの一族は次々と子孫をつくり、世界に再び人間たちがあふれるようになりました。『聖書』によれば、日本に住む私たちもノアの子孫だということになります。

「バベルの塔」の物語

ノアの子孫の人間たちは、やがて不遜な行動に出ます。「天まで届く塔のある町を建て、有名になろう」と言い出すのです。

高い塔を建てて有名になろう。中東ドバイの世界一高い建物「ブルジュ・アル・ハリファ」は、確かに有名になりましたし、日本でも日本一高いビルの建設競争が続いています。

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しかし、神はこれを見て不快に感じたようです。当時の人々は、みな同じ言葉を話していました。同じ言葉を話しているから建設作業員同士の意思の疎通が容易で建設が進んでしまう。人々の話す言葉をバラバラにして、工事ができないようにしよう。こうして人々は別々の言葉を話すようになり、工事は中断。塔は完成しなかったといいます。

神は混乱(バラル)させたので、「バベルの塔」と呼ばれるようになったといいます。日本では1980年代のバブルの時代、高層ビルや高層マンションが競って建設されましたが、バブルがはじけた結果、完成した建物が売れなくなったり、工事が中断したりするケースが相次ぎました。こうしたビルは「バブルの塔」と揶揄されました。

このように日常で使われる言葉も、『聖書』を知らなければその真の意味がわからないことはたくさんあります。常識として、あるいは教養として、ぜひこの機会に『聖書』を押さえてみてください。

池上 彰 ジャーナリスト

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いけがみ あきら / Akira Ikegami

1950年、長野県生まれ。1973年慶應義塾大学卒業後NHK入局。ロッキード事件、日航ジャンボ機墜落事故など取材経験を重ね、後にキャスターも担当。1994~2005年「週刊こどもニュース」でお父さん役を務めた。2005年より、フリージャーナリストとして多方面で活躍中。東京工業大学リベラルアーツセンター教授を経て、現在、東京工業大学特命教授。名城大学教授。2013年、第5回伊丹十三賞受賞。2016年、第64回菊池寛賞受賞(テレビ東京選挙特番チームと共同受賞)。著書に『伝える力』 (PHPビジネス新書)、『おとなの教養』(NHK出版新書)、『そうだったのか!現代史』(集英社文庫)、『世界を動かす巨人たち〈政治家編〉』(集英社新書)など。

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