池上彰氏が解説「聖書を知らないと損をする訳」 世界情勢を知るうえで押さえたい前提知識

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その証拠に、欧州の国々には、国旗に十字架をあしらったものが多いですね。スイスはEUに加盟していませんが、赤地に白く十字が描かれています。赤十字を創設したアンリ・デュナンはスイス出身で、祖国の国旗の赤と白を逆にして赤十字の旗にしました。

長らく続く中東紛争。これは、欧州のキリスト教社会で迫害を受けたユダヤ人(ユダヤ教徒)たちが、『聖書』の記載を元に「自分たちの王国があった場所に新たな国をつくろう」とイスラエルを建国したことがきっかけです。

このように考えると、国際情勢を理解する上で、『聖書』の知識が必須であることがわかります。その点、日本はキリスト教徒が少ないから不利だなあ、などと思っていませんか。

でも、日本社会にもキリスト教由来のものがあります。たとえば1週間は、なぜ7日間なのでしょうか。それは、「旧約聖書」の冒頭で、神様がこの世界をお作りになったとき、6日働いて7日目に休まれたと書いてあるからです。かくしてヨーロッパのキリスト教社会で1週間というリズムが生まれ、日本にも輸入されたのです。

私たちの日常会話で「目からうろこ」という表現が出てきますね。これは「新約聖書」の中の「使徒言行録」に出てくるエピソードが由来です。後にキリスト教の熱心な伝道師になるパウロは、当初はキリスト教徒を迫害する側にいました。するとある日、目が見えなくなってしまうのですが、イエスを信じるようになった途端、「目からうろこのようなものが落ち」、再び目が見えるようになったというのです。

どうですか。さまざまな場面に登場する『聖書』。世界最大のベストセラー書籍の内容を知らないと、恥をかくことが出てくると思いませんか。

かく言う私はキリスト教徒ではなく、むしろ仏教に親近感を覚える立場ですので、「キリスト教徒になりなさい」などと宣教するつもりはありませんが、常識として、あるいは教養として、キリスト教を知っておく必要があると思います。

今回は『旧約聖書』から、3つの有名な話を紹介します。

エデンの園追放の物語

最初の人間は男で、名前は「アダム」。その名前は土の塵から造形されたからなのです。男のあばら骨から女は造られました。「人を助ける者」として創造されたというのです。この記述を根拠に男女格差は長らく是認されてきました。女性は男性を助ける役割だというわけです。

神は2人に「善悪の知識の木」から実を取って食べることを禁じたにもかかわらず、エデンの園にいた蛇がイブを誘惑して実を食べるように唆します。

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