年功序列を見直す日本企業が陥る最大の悪手 ジョブ型への安易な転換は若年層の失業を招く

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年功序列は1970年代以降、職能資格制度という形になりました。職能資格制度とは、労働者の職能(職務を遂行する能力)に応じて等級付けを行う人事評価制度です。そこでは、年齢・勤続年数が上がるとともに能力が上がると想定されています。

つまり、年齢・勤続年数が長い従業員ほど能力が高いわけだから、高い役職に就けて、高い賃金を支払う。能力が急に下がることはないから、降格処分にはしない。これが年功序列を正当化するロジックです。

職能資格制度は急速に普及し、大手企業の8割以上が職能資格制度を採用するようになりました。今は評判が悪い年功序列ですが、経営者が思い描いた通り長期雇用と従業員の能力向上を実現し、戦後の日本企業の成功に寄与したのです。

年功序列を廃止するのは「面倒くさい」

近年、中高年の人件費負担や若手の離職など、年功序列の弊害が目立つようになっています。にもかかわらず、企業が年功序列を廃止しないのはなぜでしょうか。

「当社でも、年功序列の弊害は顕著で、経営陣も問題意識を持っています。ただ、中高年を対象に早期希望退職を募集したり、若手への賃金配分を増やしている程度で、職能資格制度の抜本的な見直しはできていません。抜本的に見直すとなると、色々と大変ですからね」(食品・人事部長)

最後の「色々と大変」というのは、年功序列を廃止するには、職能資格制度を見直すだけでなく、採用・教育・異動など関連する様々な人事制度も見直す必要があるということのようです。

現在、日本企業は未熟練の学生を新卒一括採用し、段階的に教育訓練し、ローテーションで多彩な業務を経験させています。もし年功序列を廃止したら、長期雇用という大前提がなくなり、新卒一括採用・階層別教育・ローテーションの意義が失われます。

さらに、日本では退職金や福利厚生も、長期雇用を前提に制度が設計されています。年功序列を廃止したら、これらの制度も見直さざるを得なくなるでしょう。

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