タイに渡った元JR北海道「キハ183」再始動への道 「日本カラー」打ち出し観光列車ルートで試運転

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SRTはこれよりも前に元「はまなす」用の14系客車も導入しており、こちらは北海道側で半年程度の留置期間を経て、2016年11月に順調にタイに到着している。しかし、2021年12月の時点ではなんら手を加えられておらず、港近くの駅の側線で雨ざらしになっていた。

一方、キハ183の到着後の動きは早かった。タイの軌間は1000mmで日本の狭軌(1067mm)よりも狭く、台車を改造する必要があるが、4月には初回の試運転を行い、その後すぐに内外装の整備に取り掛かった。この手の改造は競争入札制で外部業者に発注することも多いが、今回はそのようなプロセスを省きSRTマッカサン工場で全ての改造を行った。そして、改造工程と試運転の様子を逐一SNSなどで公開することで、批判的な論調を牽制してきた。

結果的にキハ183は大きな改造を加えられることもなく、外装も車内も、当面は日本での現役時代のものをそのまま引き継ぎ、「日本カラー」を前面に打ち出すことになったのである。

はたして列車の行先は?

14系も今年8月に改造を行う民間業者の施設に取り込まれ、観光列車に生まれ変わるべく改装中で、こちらは内外装ともに日本時代とはまったく異なる姿になる予定である。今回、営業開始に向けて鋭意準備が進むキハ183も、あくまでも17両中の4両である。残りの車両についてはまったく異なる装いで登場するかもしれない。SRTの担当者によると、より長く車両を使うため、将来的にはエンジンを換装する計画もあるという。オリジナルに近い姿での運転は、案外短い期間で終わるかもしれない。また、キハ183での成功をバネに、今後日本からキハ40を20両導入する計画もあるそうだ。

ナムトク線を走るキハ183
11月2日に再設定されたナムトック線試運転。泰緬鉄道の絶景区間をキハ183が行く(写真:Piyaphat Dom Sasuntorn)

11月2日には、10月に洪水のため運転打ち切りとなっていたナムトック線での試運転が再度設定され、クワイ川橋梁、チョンカイの切り通し、そしてアルヒル桟道といった名所をキハ183が走り抜けた。これにより、当初予定していた区間での試運転が全て完了し、営業開始に向けた最終調整が進む。フアランポーン駅から観光客を乗せてキハ183が走り出す日は近い。

はたして、列車の行先はナムトック、フアヒン、アユタヤ、それともパタヤか? キハ183、14系、それにキハ40と、アフターコロナのタイの鉄道旅はますます面白くなりそうだ。

高木 聡 アジアン鉄道ライター

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たかぎ さとし / Satoshi Takagi

立教大学観光学部卒。JR線全線完乗後、活動の起点を東南アジアに移す。インドネシア在住。鉄道誌『鉄道ファン』での記事執筆、「ジャカルタの205系」「ジャカルタの東京地下鉄関連の車両」など。JABODETABEK COMMUTERS NEWS管理人。

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