雑踏事故が露わにした韓国社会の「イカゲーム化」 責任逃れしようとする政府と始まった犯人捜し

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きわめつけは、文字通り市民の安全を総括する行政安全部(日本の総務省と警察庁を合わせた省庁)の李祥敏(イ・サンミン)長官の発言だった。

事故翌日の会見で「警察と消防を事前に配置したといって解決される問題ではなかった」とし、31日には「警察と消防の配置不足が事故の原因だったのかは疑問」と責任逃れと取れる見解を連発した。連日の失言に与党内からも辞任を求める声が上がるほどだった。

李長官は31日夜と1日午後に相次いで正式に謝罪したが、初動からすでに尹錫悦政府の「責任逃れ体質」を韓国社会に強く印象づけた。

なぜ行政の「責任」になるのか

このように政府の重要な位置にいる人物たちは相次いで責任から逃れようとした。それはまるで、「責任」という名のボールを回す爆弾ゲームそのものだった。

李祥敏長官
行政安全部の李祥敏長官。判事出身で、尹錫悦大統領の高校・大学の後輩にあたる(写真:行政安全部のサイトより)

読者の中には「なぜ行政側が謝罪をする必要があるのか?」と思う方がいるかもしれない。当然、あり得る疑問だ。これに対する答えは2つある。

まず、韓国市民が政府に求める役割は想像以上に大きいということだ。2020年に新型コロナが流行した際にも、こうした感覚は明確になった。政府は国民を保護する義務があるという認識は深く根付いており、韓国の有権者は日々、政府にさまざまな対策を求めるデモを行っている。

次に法律で行政の責務が定められている点が挙げられる。

『災難および安全管理基本法(災難安全法)』の第4条では「国家と地方自治体では災難やその外の各種事故から国民の生命・身体および財産を保護する責務を負い、災難やその外の各種事故を予防し、被害を減らすために努力しなければならず、発生した被害を迅速に対応・復旧するために計画を樹立・施行しなければならない」と国、そして行政の役割は明確だ。

これらの点を行政側が理解していないはずはない。そして前述したようなすでに明らかになっている事実から、謝罪の必要性は充分に認識できるはずだ。「哀悼優先」や「原因究明」をかかげ謝罪を後回しにするのは不自然であったと考えるほかにない。

その後ついに1日午前、警察庁長が記者会見を開き、100件を超える事前の通報を見逃した警察の判断不足を認め、事故における警察の責任に言及した。また、李祥敏長官も同日「国家は国民の安全に対し限りない責任がある」とし、深い謝罪の意を明かした。呉世勲ソウル市長もこれに続き、「限りない責任」を繰り返した。

だが、政府が一度見せた責任逃れの印象は、そう簡単に覆らないだろう。

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