娯楽作嫌いアカデミー賞「トップガン」候補入れも 一般感覚とズレたエリート主義との批判に危機感

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アカデミー賞にかぎらず、授賞式番組の視聴率は近年アメリカでどんどん低下してきている。『タイタニック』が作品賞を受賞した年に史上最高の視聴率を獲得したという事実もあり、アカデミーは、興行収入で成功した映画を候補入りさせることこそ鍵だと信じてきた。

だが、『ボヘミアン・ラプソディ』、『ブラックパンサー』、日本ではそうでもなかったようだがアメリカではヒットした『アリー/スター誕生』の3本が作品部門に食い込んだ2018年も、視聴率の押し上げ効果は確認されていない。視聴者、とりわけ若者の心は、授賞式番組から完全に離れてしまっているのだ。

それでも、公開から5カ月経つのにまだ映画館で上映されている『トップガン マーヴェリック』が賞を争うとなったら、気にする人は出てくるのではないかと思うのである。今年見せた『トップガン マーヴェリック』の人気は異例で、まさに社会現象とも呼べるからだ。

最終的に受賞を逃せば、「やはり結果はこうか。アカデミーは気取っている」と反感を買うことにもなりかねないが、『パラサイト 半地下の家族』の時のようなサプライズがあるのではと、ドキドキしながら見てくれる人たちも少なからずいるのではないか。

それ以前に、これは、アカデミー賞という映画の祭典で断然祝福されるべき作品なのである。近年、配信作品がアカデミー賞で大健闘するようになり、劇場文化はそのうち消滅するのかと業界人は不安を覚えてきた。今作はそんなところに現れ、一気に希望をもたらしてくれたのだ。そこを忘れてはいけない。

新しく加わったアカデミー会員には映画のビジネス面にかかわる人たちも多く、その人たちはこの映画が業界全体に与えてくれたポジティブな影響について、より深く考えているかもしれない。

いろいろな角度から見れば見るほど、『トップガン マーヴェリック』は、ただの万人受けするアクション映画ではないとわかる。この映画はアカデミー賞作品部門に候補入りするだろうし、するべき作品だ。万が一、候補入りを逃したりしたら、その時こそアカデミーは多くの人から本気で絶望されることだろう。

猿渡 由紀 L.A.在住映画ジャーナリスト

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さるわたり ゆき / Yuki Saruwatari

神戸市出身。上智大学文学部新聞学科卒業。女性誌編集者(映画担当)を経て渡米。L.A.をベースに、ハリウッドスター、映画監督のインタビュー記事や、撮影現場リポート記事、ハリウッド事情のコラムを、『シュプール』『ハーパース バザー日本版』『バイラ』『週刊SPA!』『Movie ぴあ』『キネマ旬報』のほか、雑誌や新聞、Yahoo、ぴあ、シネマトゥデイなどのウェブサイトに寄稿。米女性映画批評家サークル(WFCC)会員。映画と同じくらい、ヨガと猫を愛する。

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