仏で「コロナ後もリモートワーク加速」の納得理由 見えを張るよりも現実にしなやかに対応する

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大手保険会社のアクサ・フランスは今春以降、本社を含め100%ハイブリッドワークに切り替える方針だ。同社はフレックスオフィスへの切り替えを行うために施設が再編成され、会議室の予約システムが可能になっている。各部屋の予約状況をリアルタイムでチェックできるサイトもあり、小会議室や新しいワークスペースも整備されている。

無論、契約社会であるフランスでは、ハイブリッドワークを前提とした雇用契約書の大幅な書き換えも行っている。多くの企業は新入社員が仕事を覚える期間は会社に出勤してもらい、スキルが身につけばフレックスオフィスに切り替えるケースが多いという。

雇用主はリモートワークのための監視システムを導入し、仕事の勤怠管理システムも充実させようとしている。フランスの経済誌キャピタルによれば、自宅で働くフランス人従業員の45%は、管理ツールを介して雇用主によって監視されているという。

ただ、すっかり浸透したフレックスオフィス体制では、監視よりも生産性を上げ、成果を出すことが重視されており、その意味ではもともと成果主義のフランスでは導入しやすい側面もある。従来から短い時間働いて、高収益を生み出すことを重視してきた合理主義のフランス企業としては、働き方が変わることが生産性向上につながれば、問題はない。

20年でかなり柔軟になったフランスの働き方

不確実性が高まり、変化が読めない時代に突入した今、個人的にフランス人の対応力に感心している。例えば2002年に導入された週労働35時間制は20年のときを経て、かなり柔軟になった。導入当初、工場ではシフトを組むことに苦慮し、経営者からは「この国は終わり」との声も聞かれた。

しかし、20年も経つと、今の新しいトレンドは働く時間と場所を自由に選べる働き方を支持する考えに大きく変わった。コロナ禍を経験し、リモートが増えたこと、その間に都会を抜け出した人が急増し、場所と時間を自分で選べる企業ほど、優秀な人材から人気が集まるようになった。

フランスの労働者の「短時間で高収入」という要求は変わってはいないが、柔軟な働き方ができない職場は人気がない。生活の質を高めることに限りなく心血を注ぐフランス人だからこそ、フレックスオフィスは急速に浸透したともいえる。今は変化に柔軟なほうが評価される。キーワードは生産性と幸福度を高めることにある。

前出の南フランスに引っ越したリアス氏も「南フランスが肌に合わなければ、パリに戻れるようアパートはキープしているという。つまり、自分で無理にハードルを上げ、見えを張るよりも、現実にしなやかに対応して生きるほうがはるかに利口、というのが今のフランス人の現実主義なのだろう。変化に柔軟に対応できるフレックスオフィスやハイブリッドワークは浸透を続けている。

安部 雅延 国際ジャーナリスト(フランス在住)

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あべ まさのぶ / Masanobu Abe

パリを拠点にする国際ジャーナリスト。取材国は30か国を超える。日本で編集者、記者を経て渡仏。創立時の仏レンヌ大学大学院日仏経営センター顧問・講師。レンヌ国際ビジネススクールの講師を長年務め、異文化理解を講じる。日産、NECなど日系200社以上でグローバル人材育成を担当。

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