「舞いあがれ!」に東大阪出身者が"普通"を望む訳 「普通の東大阪」を描く「普通の朝ドラ」を

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対して、大阪の郊外を舞台としたものは、『まんぷく』(2018~2019年)の池田市や、『カーネーション』(2011~2012年)の岸和田市など、有名人(安藤百福、小篠綾子)に紐(ひも)づいたものが中心となる。

しかし今回は、東大阪を舞台としながら、実在した有名人の成功譚ではない、言わば「普通人の物語」になりそうだ。ということは、普通の町で普通の人が普通に暮らす普通の毎日――「普通の東大阪」をしっかりと描いてほしいと思うのだ。

「普通の東大阪」をリアルに描いてほしい

東大阪市は、その名前同様、イメージがつかみづらい町である。大阪市と奈良の中間に位置し、雰囲気も都会と田舎の中間という感じ。誰もが知る名所旧跡観光地に乏しく、それでも人口は約50万人もいて、多様で雑多な人々が住んでいる。

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つまりは、天下茶屋や新世界ほどに、ドラマの舞台としてキャッチーではない。しかし、だからこそ、誇張のない等身大の「普通の東大阪」をまるごとリアルに描いてほしい。

言い換えると、「ヒョウ柄を着た阪神ファンのオバチャン」に代表される、主に在京メディアによって誇張された(と私は見る)、いたずらにコテコテな大阪人像とは一線を画す「普通の東大阪人」を描くことへの期待。

例えば、今や東大阪のシンボルであり、ヒロインの実家でもある町工場。しばしば技術力がもてはやされるが、そのリアルな姿は、中小、いや零細企業であり、下請け、いや下請けの下請け。

平成の「失われた30年」の中、肩を寄せ合って明るく耐え忍ぶオッチャンたちのリアルを描く――「元東大阪人」の朝ドラファンが願うのは、そういうことだ(その意味で高橋克典が、取引先の無理なオーダーに対して、近所の工場の力を借りるシーンは良かった)。

「普通の東大阪」を描く「普通の朝ドラ」へ。立川談志は「江戸の風」という表現をよく用いたが、「東大阪の風」「普通の東大阪の風」が画面から吹いてくれば、私の心は高く舞いあがるだろう。東大阪の空に飛んだ、あの模型飛行機のように。

スージー鈴木 評論家

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すーじー すずき / Suzie Suzuki

音楽評論家・野球評論家。歌謡曲からテレビドラマ、映画や野球など数多くのコンテンツをカバーする。著書に『イントロの法則80’s』(文藝春秋)、『サザンオールスターズ1978-1985』(新潮新書)、『1984年の歌謡曲』(イースト・プレス)、『1979年の歌謡曲』『【F】を3本の弦で弾くギター超カンタン奏法』(ともに彩流社)。連載は『週刊ベースボール』「水道橋博士のメルマ旬報」「Re:minder」、東京スポーツなど。

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