今年は「サケ漁」好調でも全盛期の半分以下の背景 沿岸部の海水温上昇で死滅する稚魚が増加

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ちなみに「北海道に戻ってくるサケは4歳」とよく言われるが、実際には3年魚、4年魚、5年魚が確認されている。内水面水産試験場によると、2021年の来道数を年齢別に見ると、もっとも多かったのは4年魚で1044万尾だったが、4年魚としては平成以降3番目に少なかった。逆に3年魚は296万尾で平成以降の平均値を19%上回ったという。成熟年齢の若齢化が進んでいるというのである。

面白い現象だ。実は1980年代後半には、逆に高齢化していたと指摘する論文がある。その論文によると1990年代以降には北海道で8年魚の存在が確認された。さらに、2012年にはオホーツク海側のウトロ沿岸で捕獲されたサケの1尾が9年魚だったという報告もある(年齢は鱗で査定)。野生魚と放流魚による違いを指摘するものもある。サケの生態、その一生には、まだ未解明の部分がたくさんある。 

「豊漁」には程遠く、ピーク時の半分以下の水準

秋サケは市場でも人気だ。9月3日に札幌市の中央卸売市場で行われた3年ぶりの初せりでは、前日水揚げされた日高産の秋サケが並べられ、もっとも高いものは1キロあたり1万3999円の値が付いた。ご祝儀相場である。これは3年前の1.4倍だった。

直近の相場はどうか。10月18日は日高産の雌が取扱数量606.5キロ、1キロあたり2299円の高値が付いていた。前年の同じ日は、釧路産の雌が取扱数量329.9キロ、1キロあたりの高値2280円だった。漁獲量が少なかった昨年よりも高い水準となっている。

こうした状況を見るとサケに関してはひと安心と思いがちだが、現実はそう甘くない。秋サケ漁獲量はピーク時の2003年には5647万尾だった。今シーズン、仮に2500万尾あたりまで漁獲量が伸びたとしても、半分以下の水準である。手放しでは喜んでいられない状況が続いているのだ。

なぜサケは獲れなくなったのか。昨年10月の記事『北海道「サケ獲れずブリ豊漁」で漁師が落胆する訳』で、不漁の原因について海洋環境の変化による影響などを検証したが、それ以外の面も含めて改めて整理したい。

北海道水産会がまとめた令和3年度不漁対策検討会資料「北海道における秋さけの不漁の影響と対応」によると、海洋環境の変動で秋サケ資源が減少し、回帰数、漁獲量共に大幅に低下。現状では次のような事態が起きている。

※親魚不足により良質な種卵の確保が困難→健康な稚魚の育成が困難

※負担金減少により稚魚生産数確保が困難→老朽化した飼育施設等の整備が困難

※海水温が大きく変動→稚魚の放流適期(5~13度)の判断が難しい

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