続々と結婚登録所へ、部分動員令がもたらした転機 社会の雰囲気が一変、プーチン氏の支持率下落
今から80年近く前のこと。国民的漫画『サザエさん』を生んだ長谷川町子さんの姉、毬子さんは、婚約者に召集令状が届いたため、急遽(きゅうきょ)結婚式を挙げた。わずか1週間の新婚生活の後、戦地に向かった夫はインパール作戦に駆り出され、帰らぬ人となった。
戦時中の日本と同じようなことが、現代のロシアで起きている。ウクライナの戦場への動員が決まった男性たちが出発前に正式な結婚をしようと、将来を誓った相手と共に、続々と結婚登録所を訪れているのだ。
ウクライナ侵略が大きな転機を迎えている
プーチン大統領が2月に始めたウクライナ侵略が大きな転機を迎えている。プーチン氏は9月21日、ロシアの予備役の部分動員に踏み切った。さらに、ウクライナの東部と南部の4州で、偽の「住民投票」を強行。9月30日にロシアに4州を強制的に編入した。これら強硬策は、いずれもロシアが苦境に陥っていることの表れだ。
まず部分動員から見ていこう。ソ連、ロシアの歴史を通じ、国民を強制的に戦場に送り出す動員が発動されるのは、第2次世界大戦後はじめてだ。これは、市民社会に大きな動揺を広げている。
プーチン大統領は、動員の対象となるのは「軍務経験のある予備役」であり、「特別な技能や経験を持つ者が優先される」と述べた。ショイグ国防相は、動員されるのは30万人であり、対象となる可能性がある2500万人のうちの1%強にすぎないと強調した。
しかし、こうした発言がうそっぱちであることがすぐに明らかになった。
その日を境に起きたことは、無差別な招集だった。高齢者、軍務経験のないもの、持病持ち、父子家庭の父親といった、本来招集から除外されるはずの男たちにも令状が届いた。果ては道を歩いていただけで召集令状を手渡されたといった混乱がロシアに広がった。
大統領や国防相は嘘をつくつもりではなかったのかもしれない。適格性を欠く者をいくらかき集めたところで、戦力にはならないのだから。