小田急、列車「追いかけっこ」レア企画なぜできた? ファン向け貸し切り列車、複々線をフル活用

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VSEは2005年にデビューした特急車両で、ロマンスカー伝統の展望席や連接台車を備え、流れるようなフォルムが特徴。2022年3月11日に定期ダイヤでの運用を終了しており、2023年秋の引退までイベント列車などで運用する予定だ。5月にはVSE2編成による「追いかけっこリレー」のツアーを催行した。

一方、1000形は1988年に登場した通勤車両。このうち赤い1000形は、車体色を小田原―箱根湯本間向けに箱根登山電車をイメージしたカラーに変更した編成だった。一時は4本が活躍していたが、最近では今回のツアーで使用した1058編成が最後の1本となっていた。電磁直通ブレーキと幕式行き先表示を用いた同社で最後の車両でもあった。このツアーで花道を飾り、ほどなくしてひっそり引退した。

小田急の担当者、観光事業開発部の曽我純司さんは「当社の長い複々線区間の特徴を生かし、追いかけっこができれば面白いのではないかと企画した」と説明する。

社内のモチベーションアップのメリットもありそうだ。曽我さんは「ダイヤを作成する社員も楽しみながらアイデアを提案してくれて、ほかの列車に影響を与えないようにスジを引くのが腕の見せどころと言えた。いろいろ大変な部分があるが、お客さまの笑顔を見ると、今後のやりがいにつながる」と話していた。

手を振るクセが付いた?

今回のツアーでは駅を通過する際に運転士が警笛を大きく鳴らす場面が何度もあった。ホームから撮影している人たちの一部に危険な行動があったとみられる。

一方、ツアー参加者が、「撮り鉄」を含めた沿線の見物客と手を振り合う、観光路線のような平和的な光景もみられた。初めは恥ずかしがっていた人でも、追いかけっこの間ずっと相手の列車や沿線に手を振っていため、営業列車から乗客がいない回送列車、事業用車両に至るまで「列車を見ると手を振る」というクセが身に付いてしまったようだった。

レア体験ができる企画では、ツアー参加者だけでなく、大勢の鉄道ファンが駅や沿線に集まってくる。駅員による安全教室を受講したうえで撮影してもらうなどのコミュニケーションを深める機会にできれば、一般の利用者にもっと受け入れられていくのではないだろうか。

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橋村 季真 東洋経済 記者

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はしむら きしん / Kishin Hashimura

三重県生まれ。大阪大学文学部卒。経済紙のデジタル部門の記者として、霞が関や永田町から政治・経済ニュースを速報。2018年8月から現職。現地取材にこだわり、全国の交通事業者の取り組みを紹介することに力を入れている。

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