子宮頸がんワクチン「9年空白」が招いた重い代償 「積極的勧奨」を再開後も接種率は低いまま

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アメリカの製薬大手メルクの日本法人であるMSDは、HPVワクチンを供給するメーカーの1つ。同社の広報担当者は、世界全体でHPVワクチンの需要が高まる中、日本では供給量が大きく落ちこむ異例の状況にあったと振り返る。

積極的勧奨の再開などに当たり、MSDは相当数のワクチンを日本向けに確保している。もし接種率が向上しなければ、大量廃棄の可能性もある。別の製薬メーカー社員は「世界では需要が高い一方、日本でほとんど使われない状況が続いたら、他の地域に回したくなってもおかしくない」と指摘する。

未接種世代のキャッチアップ接種にも課題

9年の間に接種の機会を知らないまま、ワクチンの効果がもっとも高いとされる時期を逃した女性は少なくない。

大阪大学の研究では、積極的勧奨が中止された後に対象年齢となった2000年度に生まれた女性は、HPVワクチンの接種率が高かった世代と比べ、子宮頸がん検診の細胞診での異常率が高いことが報告されている。

厚生労働省が公開しているHPVワクチンに関するリーフレット
厚生労働省が公開しているHPVワクチンに関するリーフレット(画像:厚生労働省のHPより)

研究グループは、積極的勧奨がなかった世代における子宮頸がんの罹患率や死亡率の上昇について警鐘を鳴らしており、これらの世代へのキャッチアップ接種や子宮頸がん検診の受診強化の必要性を訴える。

厚労省はこの調査結果を「深く受け止めている」とし、4月からは1997年度から2005年度生まれの女性に対して無料のキャッチアップ接種も始めている。

ただ対象世代には進学や就職などで住民票のある地域を離れる人が多く、実家から連絡してもらうなどの対応が必要となる。キャッチアップには3年間の期限があり、ここでも情報の浸透が課題となっている。

産婦人科医で、HPVワクチン接種の啓発活動に関わる宋美玄氏は「基本的には性交渉開始前に接種すると効果が高い。とくにキャッチアップ世代は新たなワクチンを待つよりも、少しでも早く既存のワクチンを接種することをおすすめする」と呼びかける。

くしくも新型コロナの感染拡大によって改めて今、「ワクチン」の有効性や必要性に対する世間の関心は高まっている。9年の空白を埋めるには、多方面に向けたスピード感のある周知と、安全性に関する検証・情報開示の継続が並行して求められる。

兵頭 輝夏 東洋経済 記者

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ひょうどう きか / Kika Hyodo

愛媛県出身。東京外国語大学で中東地域を専攻。2019年東洋経済新報社入社、飲料・食品業界を取材し「ストロング系チューハイの是非」「ビジネスと人権」などの特集を担当。現在は製薬、医療業界を取材中。

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