子宮頸がんワクチン「9年空白」が招いた重い代償 「積極的勧奨」を再開後も接種率は低いまま
厚労省が積極的勧奨を中止した背景に、ワクチン接種後の体調不良がメディアなどでセンセーショナルに取り上げられたことがある。
ワクチンには副反応がつきもので、実際、HPVワクチンの接種後にも体調が悪化した事例が報告された。副反応として接種後の疲労や筋肉痛、頭痛などの報告があった一方、ワクチンとの因果関係が明確ではない全身の疼痛や知覚障害、記憶障害などを訴えるケースも相次いだ。
2014年までの調査では、それらの「副反応疑い」も含めた報告数は接種者約338万人中2584人、およそ0.08%。このうち約9割が調査時点で回復していたが、1割は頭痛や倦怠感、運動障害などが残ると回答した。ワクチン接種による死者は、現時点で認められていない。
当時はワクチンとの因果関係が不明な症状も「副反応」と関連づけるような報道がなされ、対象世代の女性や保護者の間で大きな不安が広まった。注目が高まったことを受け、厚労省は「因果関係が証明されるまで、積極的勧奨を差し控える」との対応を取るに至った。
大きすぎた9年の空白期間
厚労省は積極的勧奨をとりやめた2013年以降に全国疫学調査を実施し、HPVワクチン接種後の多様な症状が、ワクチン未接種者にも確認されることを報告している。国内外でも研究が進んだが、「副反応疑い」とされる症状とワクチンの因果関係を明確に示唆するデータは出ていない。
こうした調査結果の公表に加え、厚労省は当時の経験を踏まえ、ワクチン接種後の相談体制を整えた協力医療機関を設置。各自治体向けにHPVワクチンに関する情報提供も強化している。
ただ、9年という「空白期間」がもたらした影響は大きかった。
厚労省は積極的勧奨を再開した理由として、安全性に問題がなく、有効性が副反応リスクを明らかに上回ると判断したことを挙げている。しかし4月以降も接種率が低い状況は、行政が長らく周知を控えてきた中で、対象者や保護者の不安が残っていることの裏返しとも言える。
また、対象年齢の女子が在籍する学校でワクチンについて周知するか否かは、教員の意向や理解度によって大きく左右される。そもそも文部科学省の方針では、個別の病気に関する周知を行っていない。学習指導要領で「妊娠の経過は取り扱わない」と定めていることなどから、性交渉がきっかけとなるHPVの感染について説明することが難しいという事情もある。
一方で接種率が極端に低い状況がこれ以上続けば、ワクチンの供給機会自体が失われる可能性すらあった。
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