日本はむしろ物価高から取り残された異様な状態 世界の潮流との差で犠牲になっている人がいる

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どのように逸脱しているかというと、横軸に示した輸入物価インフレ率は約50%で、対象国の中でもむしろ上位に位置しています。ご承知のように日本は輸入に依存する度合いの高い国のひとつですが、とりわけエネルギーと穀物は多くを輸入に頼っています。今回のインフレではその2つの品目が激しく上昇しているので、日本の輸入物価も大きく上昇しているのです。

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その一方で、日本のCPIインフレ率はほぼゼロで、先ほども見たとおり世界の最下位です。これが何を意味するのかというと、海外から輸入する商品の価格は上がっているが、それが国内価格に転嫁されていないということです。どの国でも、輸入物価の上昇分を完全に国内価格に転嫁しきれているわけではないのですが、日本は転嫁できていない度合いが他国と比べて突出して高いということです。

少し違う見方をすると、日本のCPIインフレ率がほぼゼロで最下位というのは、価格を上げる必要がないから結果的にそうなった、というわけではないということが、ここには示されています。

輸入物価は上がっているので、CPIインフレ率が上昇する素地は十分にあります。それなのに、輸入品を加工し完成品に仕上げる企業や、輸入したエネルギーを利用して生産を行う企業が、エネルギーと輸入原材料の価格の上昇を自社製品の価格に転嫁するのを控えており、その結果、国内価格の上昇が抑えられているのです。

当然のことながら、これらの企業も好き好んで価格転嫁を抑制しているわけではありません。とくに輸入品を多く扱う企業(とりわけ中小企業)にとっては死活問題になるのです。

渡辺 努 東京大学大学院経済学研究科教授

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わたなべ・つとむ

専門はマクロ経済学(とくに物価と金融政策)。東京大学経済学部卒業、米ハーバード大学Ph.D.(経済学)。日本銀行、一橋大学教授を経て現職。2019年4月から東京大学大学院経済学研究科長。株式会社ナウキャスト創業者、技術顧問。

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