「みんクレ」1億円賠償にみる投資被害回復の困難 裁判で全面勝訴した投資家に10%も戻らない
「全面勝訴で判決が確定したときは大喜びした。銀行預金などの仮差し押さえもしていたので、取りっぱぐれはないと思っていた」
そう語るのは、ある投資商品で数百万円を損した男性だ。損失を取り戻すため、2017年に複数の個人投資家と一緒に裁判を起こした。訴えたのは資金を集めて運用していた会社とその親会社など。東京地裁、高裁はともに、男性ら投資家22人の主張どおり計1億円の損害賠償請求を認めた。
投資家側の全面勝訴となった判決は2021年7月に確定した。しかし男性らは、被った損失をいまだに取り戻せていない。判決が確定した後、いったい何が起きたのか。
去る2021年12月初め。男性らが訴えた会社の元社長(親会社では社長)の財産状況が裁判所を通じて明らかになった。その際に元社長から次のような考えが示された。
「『お金より、恨み』重視であれば破産を申し立てていただき、少しでも回収ということであれば10%で和解していただくしかありません」
元社長が伝えてきたのは、債権者である男性らによる破産申し立て、もしくは1億円の10%にすぎない1000万円での和解のどちらかを選んでほしいという内容だった。要するに、1億円の賠償金を支払う原資はないというわけだ。
融資が焦げ付き30億円が戻らず
男性らが訴えていた会社とは「みんなのクレジット」(みんクレ)。インターネット上で投資家から資金を集め、それを借り手企業に融資するソーシャルレンディング事業を2016年4月から行っていた。
「安心・安定の高利回り資産運用」を売り文句に、みんクレは投資家から約45億円を集めた。最大で年率14.5%という高い利回りをうたいつつ、借り手企業からは不動産などの担保を取っており、しかも複数企業に融資することで貸し倒れリスクが分散されていると投資家に説明していた。
しかし、みんクレは集めたお金のほとんどを親会社や関連会社に融資していた。2017年に関東財務局から1カ月の業務停止命令を受ける前、証券取引等監視委員会の行った検査では、元社長が自身の預金口座に投資家から集めたお金を送金させていたこともわかっている。
最終的に融資は焦げ付き、30億円が戻らなかった。男性らが起こした裁判の尋問では、「自らの懐は潤っていない」と元社長は主張していた。親会社が開発・分譲を計画していた「AI(人工知能)住宅」の土地の損切り費用や広告費用などで、集めた資金を使い切ったという。
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