カタールW杯、仏で「観戦イベント不開催」相次ぐ訳 パリやリヨン、マルセイユなどが軒並み表明

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カタールで死亡が伝えられたネパール人のカシラム・ベルバシさんは、W杯のための日系企業も関与する地下鉄整備工事で出稼ぎに来て死亡した。ベラシムさんは窓のない暗い部屋で労働者8人が詰め込まれ、部屋で呼吸不全のため亡くなった。死因は明らかにされていないが、少なくとも朝4時半に起床し、朝6時から夕方6時まで働き、過酷な労働環境、劣悪な生活環境が死につながったとみられる。

今年8月時点のイギリスのガーディアン紙の情報によると、カタールが2010年にW杯の招致を勝ち取って以来、2021年2月時点でインド、パキスタン、ネパール、バングラデシュ、スリランカから来ていた出稼ぎ労働者のうち6500人もがカタールで死亡したという。

これに対し、カタール政府は、W杯関連の工事での死亡者かどうか判別できないと反論し、長年カタールに住む外国人の高齢死亡も含まれるとしている。政府が運営する医療機関への独自調査によると、W杯建設プロジェクトで2021年の1年間で50人の外国人労働者が死亡し、500人以上が重傷を負い、3万7600人が軽度から中程度のけがをしたという。

ただ、イギリスBBCアラビア語放送は、カタール政府が外国人労働者の死亡を過少報告している証拠を持っていると報じている。

いずれにしても、W杯のメインスタジアム建設だけで3万人の外国人が雇用され、劣悪な環境で過重労働を強いられているという。数週間前には、建設を手がける首都ドーハにあるアル・バンダリー・インターナショナル・グループの本社前で給与未払いなどに抗議してデモが行われた。政府当局は、治安を不安定化させたとして暴動鎮圧を理由に抗議への参加者数人を逮捕している。

人権問題には非常に敏感なフランス

そもそもフランスは人権問題、とくに平等意識には非常に敏感だ。過去には植民地の人々を奴隷化した反省から、アジアの貧困国から出稼ぎに来た労働者を酷使することには嫌悪感を抱いている。

この問題では政治的に右派から左派まで同じ問題意識を共有しており、最初にカタールW杯のパブリックビューイングの中止を表明したのは、左派の大物政治家であるフランス北西部リール市のオブリ市長だったが、右派の市長たちもオブリ氏に続いた形となった。

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