トルコは第3次世界大戦回避の立役者になれるか 世界を駆け回るエルドアン大統領の胸の内

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トルコ共和国は、ケマル主義として共和主義、民族主義、人民主義、国家資本主義、世俗主義、革新主義という6つの柱をかかげ、徹底した西欧化を推し進めた。一貫していたのはロシアであるソ連との敵対関係であり、つねにロシアそしてソ連に対して敵対的であった。そのため第2次世界大戦の参戦には消極的で中立を保ったが、1945年に戦局が連合国軍側に有利になるとロシアとともに連合国軍につくことになる。

しかし、ソ連が東欧地域に影響力を強めるなか、トルコの位置はギリシア同様微妙なものとなる。ユーゴスラビアとアルバニアが共産化し、ギリシヤと戦争が始まった。そのため、ギリシヤを共産化させないというイギリスとアメリカの連携が、イギリス首相のチャーチルによる有名なフルトン演説、すなわち「鉄のカーテン」の演説を導き出し、そのためトルコとギリシヤは共産化を食い止める西側の重要な役割を担った。

こうしてトルコは、西側であるギリシアとの領土問題やクルド人との問題を持ちながらも、西側寄りの姿勢をとり、その結果がNATOへの参加となってソ連に対する防波堤の役割を果たす。

債務を負うことで西側に従属した

戦後トルコは軍事政権にさいなまれながらも、西側の国としての位置を築いていく。しかし、ソ連東欧の崩壊とともに、トルコの防波堤としての役割が小さくなる。もはやトルコは西欧にとって、ソ連東欧に対する防波堤ではなくなったのだ。それが結果的に、トルコのEUとの関係に現れる。東欧諸国がどんどんEUに入っていく中で、トルコはいまだに加盟できず、孤立していくのだ。

とはいえ、トルコは経済的には西側との関係は切れなかった。しかしその関係は、つねに西側に対して債務を負うことで、たびたび経済がデフォルトを起こすという西側の第三諸国に見られる典型的従属関係であった。

その意味では、トルコは同じようにデフォルトを起こすギリシアと並んで、ある意味ヨーロッパの外にある。むしろ中南米諸国に近い位置にいるといってもいい。今現在もインフレに悩んでいる。2022年8月から9月だけでも、トルコ・リラは80%のインフレを起こしている。その原因は、現在のエルドアン体制によるインフラ投資にある。

イスタンブールはヨーロッパ側にその中心があるが、ここは今でも1500万以上の人口をもつヨーロッパ最大の都市だ。しかし、だれもここをヨーロッパだというものはいない。それはモスクワをそう思わないのと同じだ。ヨーロッパでありながら、その外にあると思われているのだ。トルコの不満は、ここにある。

21世紀に入って、エルドアンの公正発展党はこれまで軍事介入によって翻弄され続けたトルコをある意味民政に変え、遅れていたトルコ経済を立て直し、世界中から資金を集め、鉄道、空港、住宅などの大規模投資を行ってきた。そのため、トルコ・リラは世界の資本投機の対象となってきた。

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