激増する「不起訴の理由が不明」記事が大問題な訳 凶悪犯罪でも真相が水面下に潜ってしまう

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例えば、5月28日の「殺人容疑の男性不起訴処分」という北海道版の記事は、3月に起きた母親刺殺事件の続報だ。

逮捕段階では、道警の発表に基づいて20代の男性容疑者は実名で報道され、事件の内容についても「自宅で母親の頭や顔などを刺して殺した」という趣旨が記されている。それなのに、札幌地検は不起訴理由を「明らかにしていない」で終わっている。嫌疑なしなのか(この場合はありえないと思うが)、嫌疑不十分なのか、起訴猶予なのかもわからない。

普通、起訴・不起訴の記事は「容疑者逮捕」「摘発」の続報だ。少年事件などを除き、報道機関は容疑者の実名を報じる。したがって、不起訴を伝える記事は、容疑者の名誉回復という意味も持つ。逮捕時に実名をさらされ、その後、「嫌疑なし」で不起訴になったのに、その事実が報じられないとしたら、当人の名誉回復もなかなかできないだろう。

そのため、報道各社は社内のガイドラインで「不起訴処分と発表されても、嫌疑はあるのか、あるいは嫌疑がないか不十分なのかなどを取材し、記事に反映させなければならない」(朝日新聞社「事件の取材と報道 2018」)などと定めている。

「嫌疑なし」と「起訴猶予」には天と地ほどの差がある。これら不起訴の種類すら報道できないのであれば、報道機関はその義務を果たしているといえるのかどうか。

理由の公表を拒む検察、突破できない報道機関

それにしても、なぜ、これほどまでに「不起訴の理由は不明」という記事が増えてきたのか。考えうるのは、不起訴理由の公表を拒む検察の姿勢と、それを突破できない報道機関の弱体化だろう。

2年前の2020年7月、読売新聞島根県版と山陰中央新報に興味深い記事が載っている。ベタ扱い程度の小さな記事だ。新しい検事正の着任を機に松江地検が方針を変え、不起訴の理由を原則として公表しない姿勢に転じたという内容である。両紙の記事を一部引用しよう。

松江地検が20日、不起訴処分の内容を公表しない方針に転換した。地検は「検事正が代わったため」とし、詳細な理由を明らかにしていない。松江地検はこれまで逮捕・送検された人を不起訴にした場合、報道機関に処分内容を明らかにしていた。(略)逮捕、送検された人の名誉回復、警察の捜査が適切だったかを明らかにする上で、処分内容の公表は重要な役割を果たしていた。(2020年7月21日、山陰中央新報)
地検は、逮捕・送検された容疑者を不起訴とした際、報道機関の取材に対し、これまでは「嫌疑なし」「嫌疑不十分」「起訴猶予」といった理由や内容を明らかにしてきたが、方針を一転させた形。三井田次席検事は方針変更について、「処分内容を公表したときに発生する人権侵害などを考慮した」と理由を述べた。(2020年7月24日、読売新聞朝刊大阪本社版・島根県版)

記者会見という公の場で不起訴理由の非公表方針を公言したケースは、記事になっていないだけでほかの地検でもあったかもしれない。記者会見で公言しなくても、非公開方針を旨とする地検はほかにも多々あろう。

検察組織の統一性や実際に「不起訴理由が不明」記事が激増している実態を踏まえると、非公表方針の考え方は検察組織全体で共有されていると考えていい。

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