典代さんが九州にやって来たのは結婚の1年前にさかのぼる。両親が不仲で、関西在住の兄とも親しいとは言えず、地元らしい地元はない。海外で働きながら暮らしていたこともある。今の土地も「とっくに亡くなっている祖父母の家が隣町にある」という縁にすぎず、知り合いなどはまったくいなかった。
「他人に避けられてしまいがちな私ですが、寂しい気持ちはあります。でも、お酒が飲めないので飲み屋で常連客と仲良くなったりはできません。近しい人が欲しいという気持ちでマッチングアプリを試したこともあります」
行動力には秀でている典代さん。九州全域で相手を探し、実際に会ったこともある。でも、自分と同じぐらい「一癖ある」男性ばかりで一緒にいて楽しくなかったと振り返る。同族嫌悪と言えるかもしれない。
職場でも大胆に行動しアプローチ
典代さんはさらなる行動に出た。当時勤務していたアパレル系の工場で働いていた章夫さんに目をつけたのだ。
「私は事務だったので生産現場の夫と絡むことはありませんでした。でも、寡黙で誠実そうで同じく昭和48年生まれだと知ってがぜん興味を覚えたんです。彼が独身かどうかを同僚に確認したうえで、駐車場で待ち伏せして『可愛い車に乗っていますね』と話しかけてLINE IDを渡しました」
職場にしては大胆な行動である。噂になりかねない。「空気を読めない」典代さんだからこそできたとも言える。
しかし、空気を読んでいたら章夫さんのような男性とは個人的に親しくなることはできないだろう。「地元の男友だちと野球をしたり酒を飲んだりするのが好き。気を遣うのが面倒なのでアプリなどは絶対にやらない」と言い切る人物だからだ。
筆者も製造業が強い地域に住んでいる。新たな出会いの場に出てこない独身男性は少なくない。結婚したくないわけではないけれど、現状でも満ち足りているのだろう。だから、「外」に出る必要性を感じていないようだ。こちらから話しかければ照れながらも仲良くしてくれることもあるので、周囲の突破力次第では彼らを引っ張り出すこともできる。婚活の場に出てこない人たちは、婚活における最高の穴場とも言えるのだ。
「いきなりLINE IDを渡して迷惑だったかなと後から心配になりました。私はいつも行動してから後悔するんです……。でも、その日のうちに夫のほうから『こんばんは』とだけメッセージがありました。私もメッセージを返して話も合う感じがしたので、3日後には私から『どこかに連れて行ってください』とお願いしました。夫からは絶対に誘わないと思ったからです」
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