「習近平3期目」地ならしに向けた凄惨な権力闘争 証拠をでっち上げて、邪魔者を政治的に暗殺

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あるとき、ホイットニーは、香港の中環のショッピング街にある嘉信表行(カールソン・ウォッチ・ショップ)に谷麗萍を連れていった。嘉信表行で売られている腕時計の中には50万ドルするものもある。だが、谷麗萍は2万ドルの値札が付いたものを見ただけで青ざめた。次には、スーツを見に、近くのシャネル・ショップに行ったが、値段をチラッと見るなり、高すぎるわとつぶやいた。シャネル・ショップは初めてだったようだ、とあとでホイットニーは言っていた。

北京では、2人はよくグランドハイアットでお茶を飲んだ。ホイットニーはときどき、ビジネスの提案を持った人物を連れていったが、谷麗萍は熱心に聞くだけで、話に乗ろうとはしなかった。結局、ホイットニーは彼女と出かけるのをやめてしまった。谷麗萍には、政治的な後ろ盾も、将来の展望も、何かをなそうという意志もないと判断したからだ。「彼女は話をするだけで行動しようとしない」とホイットニーは不満を漏らしていた。

彼らの死んだ息子、令谷に対する嫌疑も疑わしいものに思えた。国営のメディアは、彼が政治的な秘密結社を作ろうとしていたと非難したが、冗談じゃない。彼がやっていたのは読書サークルだ。私はこの目で一部始終を見ていた。本をいくつか紹介したくらいだ。

証拠のでっち上げは当たり前

中国では、共産党は、証拠をでっち上げ、自白を強要し、事実に関係なく自分たちが選んだ容疑をかけることができる。システムが非常に不透明なために、多くの人がだまされて、党がかけた容疑を信じるのだ。中国の経済成長率と同じである。党が目標を設定すると、毎年、奇跡のように、小数点以下まで一致した数字が達成される。外国人を含めて誰もが同じ噓を受け売りするのは、共産党が、真実を隠し、異論を封じることに熟達しているからだ。事実とフィクションを見分けるのは不可能に近い。

だが、私たちは個人的に令一家と親しくしてきたので、彼らに対する嫌疑は馬鹿げているし、国営メディアが報じた彼らの推定資産はでたらめだとわかった。令計劃が粛清されたのは、平均的な官僚よりも腐敗していたからではなく、競合する政治勢力を彼が代表していたからだ。それが衆目の一致する見方と言っていい。

そして孫政才の事件である。彼は、2022年から2023年に国家主席および党総書記としての2期目を終える習近平の後継を争っていた。2012年に薄熙来が失脚したあと、孫政才は重慶市のリーダーの地位を引き継ぎ、国営メディアに手腕を称賛されていた。

ところが、2017年2月を境に、彼の人生は暗転する。中央規律検査委員会が、重慶市への薄熙来の影響力を十分に排除できていない、と彼を批判したのだ。同年7月の初め、孫政才は重慶市の職を解かれ、後任には、習近平が浙江省のトップだったときに彼のプロパガンダの責任者をしていた男が就いた。

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