辻仁成「世界一の手作り肉まんを息子と食べた日」 人生の岐路に立つ息子にぼくが語った2つの事

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青年はソファにふんぞり返って、携帯を覗き込んでいる。ぼくはギターをひっぱり出し、フレーズを弾いた。

「来月のライブ用に、フランス語の曲を作りたいんだ。こういうメロディ。なんかフランス語で書いてよ」

なんとなく話題をふってみた。すると珍しく、のってきた。起き上がり、メロディを追いかけている。普段なら、やだよ、と言い残して部屋に戻るところだが、よっぽど寂しかったな……。

なんだかんだ、新曲が完成してしまった。音楽というのはこういう時に便利だ。余計な会話が必要ない。思わず、楽しい夜になった。こんなおやじでも、存在理由がそこにあったので、 ぼくとしても嬉しかった。ところで、息子が作った歌詞とはこんな感じである。

Dans la vie
人生の中で、
Y'a toujours des moments tristes
誰にだって悲しい時間ってのがあるよね。
Pas toujours qu'on réussi
そもそも、いつもうまくいくってわけじゃないしさ。
C'est la vie c'est pas la vie et alors c'est ta vie
だって、それが人生だし、てか、人生はそんなもんじゃないし、でも、それはお前の人生なんじゃんね。

人生の岐路に立つ息子と肉まん談義

2月某日、ぼくと息子は手作り肉まんにからし酢醤油をつけながら頰張った。

「うまい」と息子が言った。

「手作りに敵わないんだよ。手作りは最高なんだ。最高のものを手に入れたければ人と違うことをやれ」

息子が頷いている。

「で、相談って何?」

「この休み明けで、進路を決めないとならないんだよ。簡単に言うと、コースを選ばないとならないの。でも、それを選んだら将来が限定され、動かせなくなる。道が決まってしまうんだ。で、ぼくが悩んでいるのは数学を残すか、捨てるか」

「パパだったら捨てるけど、なぜかというと数字アレルギーだから」

「知ってる。パパはレジで、指折って勘定してるもんね」

「うるさい。でも、君は数学成績悪くないじゃないか。将来のことを考えると数学とってないとつぶしがきかなくなるんじゃないの?」

「そう言う人が多い。でも、来年から数学が半端なくハイレベルになる」

「今以上にか? パパは無理」

「エンジニアを目指すならやってもいいけどってレベルになる。うちの学校は数学が強いから、ついていくので精いっぱいになる。数学ばかりやらなきゃ追いつかなくなる。そしたら勉強したいものができなくなる」

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