夕方、目が覚め、何か簡単な料理を模索していると息子がやってきて、キッチンの丸椅子に腰かけ動かなくなった。何か、と問うと、何食べるの、と返ってきた。「うまいものさ」ぼくはご飯を炊き、冷蔵庫を漁って、残っているもので簡単な煮物を作ることにした。冷凍庫に鶏肉、野菜室に人参、大根、蓮根があった。それから乾燥の割り干し大根と椎茸も出てきた。大根はちょっと古そうだったけどなんとか食えそうだ。レストランに出かける方が疲れる性格なので、ササっと筑前煮と割り干し大根の煮物を作った。お、とんかつが3枚、冷凍庫の隅っこから出土したので、これも揚げることにした。
死ぬことは問題じゃない、生きることだよ
ぼくが料理しているあいだ、息子はずっとそこから動かなかった。あれ、珍しい。普段は近づかないのに。どうした、と訊いた。別に、と息子が言った。「パパは、昔から料理やるの?」と訊いてきた。
「ああ、料理ができると人生が二倍楽しくなるからね。お前も勉強した方がいい。あれ? ウ イリアムとトマと三人でやるレストランって、今日じゃなかったっけ?」
「あ、あれね、木曜日になった。パパが大変だから、今日はやめて木曜日にした」
「ありがとう。今日だったら死んでたな」
「だよね。ごめん」
「レストラン、メニュー決まったの?」
「決まったよ、食べ放題にする」
ぼくらは二人で食事をした。アヴィーチーという自殺したアメリカの歌手のことを話し合った。なんで死ぬんだろ、とぼくが言うと、息子は、死ぬことは問題じゃない、生きることだよ、と言った。
夕食後、仕事場で小説を書いていると、息子が再びやってきて後ろのソファに座り込んだ。
あれ、仕事場に顔出すなんて珍しい、と思った。どうした、と訊くと、別に、と言った。
「パパ、なんか飲む? コーヒーでも淹れようか?」
そこで、気がついた。もしかしたら、こいつ寂しかったのかな、と思った。独りぼっちだったので、寂しかったのだ。思わず相好が崩れた。そういう時もある。だから、ぼくは仕事をやめて息子と向かい合うことにした。
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