イスラム世界の衰退は「微積分学」を拒否したから 知的世界で西欧の逆転許したプライドの高さ
なぜそういうことになるのかの詳細は拙著『物理数学の直観的方法〈普及版〉』(2011年、講談社)に詳しく書かれており、とくに「作用マトリックス」という技法を使うとそれが直観的に把握できるので、興味がおありの読者はそちらを参照していただきたいが、とにかくそうだとすれば、先ほどの成功体験に基づく「すべてをパーツに分割して扱える」というドグマは根本から揺らいでしまうことになる。
翻ってイスラム文明を眺めると、彼らにはそういう「世界は幾何学的に完全な形になっている」といった「調和的宇宙=ハーモニック・コスモス」への信仰をもたなかった。
そのため、かえって微積分学や天体力学の弱点が素直にみえてしまったのかもしれないが、とにかく彼らはキリスト教文明ほどには天体力学や微積分学に惹かれることはなく、結果的にその流れに乗り遅れることになった。その結果は重大で、それまではイスラム世界は西欧の先生だったが、ついには知的世界の地位において西欧に逆転されてしまったのである。
うわべだけの中東民主化は失敗を避けられない
イスラム世界のウラマーは本来ならば、テクノロジーに対応できる「テクノ・ウラマー」とでも呼ぶべき集団をもっているべきだった。そういう集団を実装しない限りイスラム世界は立ち直ることができず、表面的に西欧の民主社会をもち込もうとしても、結局はそれは根無し草に終わり、むしろ攘夷浪士のようなテロリストを生み出す結果だけを招いてしまうのである。
こう考えると、現在の中東世界の混乱もよくわかる。つまりこの種の「テクノ・ウラマー」を育成してそれを中核にする以外、やはりイスラムは立ち直ることができないという理屈になるのだが、欧米のこれまでの中東政策はその根本をまったく理解せず、そういった方針を実行したこともない。
そのため失敗するのは当たり前の話だったのであり、筆者はこれを踏まえていないうわべだけの中東の民主化は、今後もすべて失敗するであろうと断言してはばからない。
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