「日本の鰹」を支えるカタクチイワシ漁師の凄さ 戻り鰹の向こう側、知られざる仕事人の歴史
2015(平成27)年は錦江湾で初めて生簀船を導入。これにより漁獲したカタクチイワシを一度に大量・安全に運搬できるようになった。
来年の2023(令和5)年にも最新の網船が完成予定、これによりさらに漁の効率が大幅に上がる見込みだ。17歳で船を夢見て出稼ぎに行った頃から、設備の重要性を意識してきた信念が半世紀以上にわたるカタクチイワシ漁を支えてきたのだ。
安定供給のために1億5千万もの買い付けも
また、質の高さも㈱かね丸水産が長く続いてきた理由だ。カタクチイワシを購入したカツオ船は、そのまま屋久島沖や奄美大島近海へ向かう。鮮度のいいカタクチイワシはカツオの食いつきがよいため、鮮度抜群のものを手に入れなくてはならない。
「500トン型の船なら、餌だけで500~600万円分くらい積んでいくし、油代や人件費もある。生餌を沖に持って行く途中で死んだら何にもならんわけですよ。とってすぐのタレクチ(カタクチイワシ)は擦れたり弱ったりしているから、うちでは4~7日生簀でならせて元気にしてから販売している」
㈱かね丸水産のカタクチイワシは新鮮で質が高いとカツオ船の間でも口コミで評判で、長年取引を続けるカツオ船も多い。
しかし、漁は自然が相手なので不漁の時期もある。そんな時は、他の地域でカタクチイワシ漁をしている業者から買い付けて自分の生簀に持ち込み、販売する。ほとんど利益の出ない、時には赤字にもなるやり方だ。それでも買い付けに訪れるカツオ漁船への安定供給のため常に確保する。買い付けるカタクチイワシの品質にもこだわり、最近も社長の謙太郎さんが直々に現地まで出張して状態を確かめてから購入した。
「今年は取れなくてですよ、1億5千万円くらい支払いました。それでもつなぎをせんないかん」
㈱かね丸水産が長く続いてきた背景には、設備投資への認識や質の高さと信頼がある。しかし何よりも大きいのが共に働く従業員たちの存在だ。自然相手に行う海の仕事は時に命をかけた厳しさがある。冬の夜の漁は凍えるように寒く過酷だ。苦楽を共にしてくれる従業員たちがいてこそ、漁を続けてこられたと兼男さんは言う。その思いは後を継いだ謙太郎さんも同じだ。
「一代でここまで大きな会社にした父を尊敬しています。反面、プレッシャーに感じるのも事実ですが、やりがいのある仕事だし何より従業員あっての会社なので、これからも自分なりに頑張って従業員と共に歩んでいきたい」
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