「RZ」レクサス初のEV専用車に乗ってわかった実力 エンジン車やHVでは到達不能な走りの可能性を見た

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レクサスRZ(プロトタイプ)
ステア バイ ワイヤを搭載したステアリング(写真:トヨタグローバルニュースルーム)

肝心な操作性も、低中速域では少しの操作でよく切れるので最初は面食らうが、慣れてくると操舵量が少なくて済むのが心地よくなってくる。とりわけ、交差点のように普段は持ち替えるようなところや、左右に切り返す場面での小気味良さが光る。一方、高速域ではギア比が逆にノーマルよりスローになり安定感が強調されてくる。こうしたギア比の変化にもかかわらずつながりが終始自然で、メリットだけをしっかり享受できることには感心させられた。

BEVの美点をうまく活かせば、静かさ、滑らかさ、スッキリと意のままになる走りという、これまでレクサスが追い求めてきた走りの世界を、あるいは内燃エンジン車やハイブリッド車では不可能なほどの高い次元で具現化できる。RZの走りの印象は、まさにそれに尽きる。レクサスはもっとBEVに積極的でいいんじゃないかというのが率直な思いである。

ほんの少し前までのプレミアムカーの世界は、メルセデス・ベンツ、BMW、アウディやジャガー、キャデラックといった歴史と伝統のあるブランドに対して、レクサスのような新興勢力が対峙していくのは簡単ではないという意識が支配的だった。しかし時代は変わった。それはテスラのこの市場での快進撃を見れば、疑いようがない。

ここでドイツ勢にBEVを先行されるのはもったいない

つまりレクサスには今、大きなチャンスが訪れている。躊躇している場合ではなく、ブランドの得意分野を活かしたBEVの投入でポジションを築き上げていくべきなのが今というタイミングだろう。ここでドイツ勢に先行されるのはもったいない。

最近のレクサス車の資料には「多様化するお客様のニーズやライフスタイルに寄り添いながら、カーボンニュートラル社会の実現に向けて、プラクティカルな電動車の普及に貢献していきます」という文章が記されているのだが、プレミアムカーユーザーが求めるのは必ずしもプラクティカルなものではないのも事実である。そしてまさにニーズやライフスタイルは多様だ。V8エンジンもハイブリッドもあれば、BEVもあるというのが理想だろう。

レクサスは2035年には100%BEVのブランドになると宣言している。どのみちやるつもりなら、一気呵成に。RZの高い完成度を味わって、その思いを新たにした次第である。

島下 泰久 モータージャーナリスト

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しました・やすひさ / Yasuhisa Shimashita

1972年生まれ。日本自動車ジャーナリスト協会(AJAJ)会員。走行性能からブランド論まで守備範囲は広い。著書に『間違いだらけのクルマ選び』(草思社)。

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