「データの奴隷」私たちの仕事が変質してゆく是非 ケインズが「デジタル資本主義」を分析したら

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ケインズこの賞金付き〝美人投票〞の世界の迷宮の中で生きていることを自覚すべきだ、というのが私からのひとまずの提言です。

検索して、主体的に情報を有効に利用しているのか? それとも、その検索行為自体がデータとなって次の消費行動を促されることになってしまっているのか? わが敬愛するシェークスピア先生なら言うでしょうな。

〝使って〞いるのか?〝使われて〞いるのか?〝それが問題だ!〞

ここは、どなたか突っ込むところですよ。

デジタル技術は「成長」を生まないのか?

ケインズ:さて、一連のこうした話、みなさん、ネット上での意見表明、消費行動などをイメージしているかもしれませんが、もちろん株式市場でも同じことですよ、と言うか、私自身は、当時、アメリカのウォール街での乱高下する株価の様子を見て、大衆の欲望の揺れに不安定化を余儀なくされる市場の悲喜劇を指摘するために、この比喩を思いついたのです。

勝ち馬に乗ることをもくろむ買い手たちが、企業価値ではなく人気投票のように動くことで、独り歩きする幻想の株価が生まれる状況に呆れたのが、発想の原点でした。

大衆的欲望が社会の主役になるとき、データが行き交い、情報操作による不安定化が生まれるのは、みなさんにとっては、ネット時代のフェイクニュースなどが身近な話かもしれませんが、このITという技術も、アメリカ発なのでしょう? 困ったものですな……。

ちなみに、アメリカ人には、金融以外の分野ですら、〝平均的な意見に関する平均的な意見〞を見つけ出すことに意味もなく関心を持つ傾向があります。

この国民的な弱点は株式市場で因果応報の結果をもたらしていると嘆いた私の洞察は残念ながら、現代では世界に広がろうとしているのでしょうか?

質問者:とはいえ先生、やっぱり、シリコンバレー発のテクノロジーによるスタートアップは、さすがに全盛期を過ぎたようですが、もはや定番、希望の星ですよ。現代の富を生むルールは、デジタル資本主義で、どう新たなビジネスモデルを生んでいくかにかかっているわけですよね?

ケインズ:富を生むルールねえ……。何が社会にとっての本質的な富か? 豊かさか? ちょっと考えてみることですね。

確かに技術開発は産業革命以降、いつの時代も経済の原動力、しかし現代のデジタル技術は、社会全体の発展というよりは、格差、分断を生んでいるようではないですか?

その原因が世界が市場でつながったこと=〝グローバリズム〞にあると考える人たちからは、反〝グローバリズム〞の動きもありますね。一部のお金持ちばかりがどんどん豊かになり、見捨てられたように感じた中間層のビジネスパーソン、労働者たちがトランプ現象を支えた1つの要因だったと言っても間違いではないでしょう。

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