「データの奴隷」私たちの仕事が変質してゆく是非 ケインズが「デジタル資本主義」を分析したら

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ケインズ:100枚の写真の中から容貌の美しいと思う人に投票するコンテストがあったとき、優勝した人物に投票した方には後日賞金を差し上げますという条件が加わった途端にガラリと様相が変わってしまうという、あの比喩です。誰が美人か?ではなく、誰が優勝しそうか?に、あっという間にゲームのルールが変わってしまうわけです。

結果、皮肉なことに、〝美人〞ではなく、美人と多くの人に〝思われそうな人〞が選ばれる可能性が高くなり、投票者の心理の読み合いが始まる

その読み合いは、平均的な意見は〝何が平均的な意見になると期待しているか〞を予測する思考を呼び込むことになりそうですね。そして、〝誰も美人とは思わない〞美人が、実に凡庸なる〝偶像〞が誕生するという残念な結果を生むというわけです。

どうです? 売れ筋は何か? 話題になりそうなものは何か? ネット社会のマーケティングに日々奔走、翻弄されるみなさんにとっては、もはや毎日が美人投票、歪んだ民主主義モドキの世界の中にいると言っても過言ではないのではないですか? 

これが、データが商品になると言われるみなさんの時代、デジタル資本主義の1つの側面です。

日々トラッキングされる気持ち悪さ

質問者:ケインズ先生、今のレトリックは、私のような、日々トラッキングされる気持ち悪さを感じている人間にはすごくフィットしました。

AIが大量のデータで稼働するシステムであることとも関係しているんだと思いますが、無料のアプリの裏側で、私たちの行動は日々追跡=トラッキングされていますよね? その仕組みがきちんとわかってはいないことにも不快感を抱くんです。

そうした不快感を持ちながらも、ビッグテックが集めたデータを意識して、トレンドや次の「売れ筋」を追おうとしている自分がいたりして。矛盾していますよね。

ケインズ票を集め〝そう〞な人を予測しよう、勝ち馬に乗ろうという心理こそ、情報が命のデジタル資本主義のベースでうごめく、言わば、無限のゲームを駆動する情念と言えるでしょう。同時にそのシステムは、アイドル探しの情念をさらに駆り立てるわけです。

皆さんの感じる気持ち悪さ、不快感の問題は、単に自分の個人情報を盗まれているというレベルではなく、1つの消費行動がデータとなって、デジタル資本主義のシステムを強化することにもつながっているという二重の不快感、と言えるのではないでしょうか?

要するに、素朴に言えば、真に美しい人、すなわち、真に欲しいもの、真に価値あるものを私たちはもはや選ぶことができない、ということにつながりかねないわけですよ。もっとも、そんな存在自体が虚構だという話もありそうですけれどもね……。

次ページ検索した情報を利用しているのか、消費を促されているのか
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