儲かりたいなら「誠実になるしかない」必然的理由 アダム・スミス「資本主義のタテマエとホンネ」

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一般に世間というものは、徳だけでなく富や地位を尊敬の対象とします。徳に対する尊敬と富や地位に対する尊敬は異なるのですが、多くの不注意な人々は真正で堅固な徳よりも富や地位といったものに気を取られ、多くの富を持っていたり、高い地位にあったりする人々の高慢や虚栄に、無邪気に感嘆してしまうのです。注意深い人なら間違えることはないのですけれどもね。

さらにこの多くの不注意な人からの尊敬を受ける上位の者は、富裕な人や地位のある人に感嘆するという多くの人間の性質のおかげで、流行を作ったり導いたりすることができてしまうのです。

上位の者に憧れる虚栄的な人々は、彼らの生活を装い、自らが彼らと同じような眼差しを向けられることを誇りとするわけですが、これは質問者の方が言うところの〝エシカル消費〞を発信する若者たちの中にも、時に見受けられる心理と言えるかもしれませんね。

つまりは、その若者たちの場合、それは〝エシカル消費〞している自分を発信することで、〝イケてる商品を身につけている自分〞という自意識を満足させる、虚栄心に満ちた行為になってしまっている場合もあるのではないでしょうか? 

そしてその〝エシカル消費〞を良しとする流行も、SDGs〝ブーム〞と一緒になって、多くの不注意な人々をSDGs〝商戦〞に導いている上位の人々がいるという可能性も見え隠れします。

人間は〝感情の奴隷〟か?

アダム・スミス:ちょっとダークサイドからの解説に傾きすぎでしたかね? しかし、現代の状況をつぶさに眺めると、市場と倫理をめぐる皮肉な逆転現象があちこちにありそうで、どこまでが善意でどこからが悪意か、複雑化して傍で見ていても判断が難しいケースが数多くありそうですね。

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先に〝徳よりも他者からの尊敬や驚嘆を求める〞という表現をしましたが、実はみなさん、それも、このインターネットによるデジタル資本主義の中では、完全に日常の光景になっているのではないですか?

みんな、〝ランキング1位〞とか、〝口コミナンバーワン〞とか、そのものの価値を見極める以前に、ネット上のさまざまな数値、評判が先行する中で、さまざまな尾ひれがついていくマーケットの世界の動きに巻き込まれていますよね。

いや、意地悪を言う気はありませんが……。私のように200年以上前に彼岸に移った人間は高みの見物ですみますが、みなさんは本当に日々大変だと思いますよ。誰しも超然とはしていられないでしょう。

丸山 俊一 NHKエンタープライズ エグゼクティブ・プロデューサー/立教大学特任教授/東京藝術大学客員教授

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まるやま しゅんいち / Shunichi Maruyama

1962年長野県生まれ。慶應義塾大学経済学部卒業後、NHK入局。「欲望の資本主義」「世界サブカルチャー史 欲望の系譜」「欲望の時代の哲学」などの「欲望」シリーズのほか、「ネコメンタリー 猫も、杓子も。」「地球タクシー」などをプロデュース。過去に「英語でしゃべらナイト」「爆笑問題のニッポンの教養」「ソクラテスの人事」「仕事ハッケン伝」「ニッポン戦後サブカルチャー史」「ニッポンのジレンマ」「人間ってナンだ?超AI入門」ほか数多くの異色教養エンターテインメント、ドキュメントを企画開発。著書に『14歳からの資本主義』『14歳からの個人主義』『働く悩みは「経済学」で答えが見つかる』『結論は出さなくていい』など。

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