天才をつくるには、明らかに2つのまったく異なる方法がある。片方はすぐ明らかになるもの(天性)、もう一方はなかなか現れてこないもの(苦労を惜しまぬ自己研鑽)。どちらも必要ではあるが、では、その比率は?
練習支持派は、結果の80パーセントは努力で決まると言い、それに対して心理学者は、対象とする分野にもよるが、その数字が25パーセント程度まで下がることもあることを、最近ほのめかしている。
才能と努力の重要度の比について洞察を得るため、イェール大学の私のコースを卒業していった天才ネイサン・チェンに話を聞いた。
シモーネ・バイルズが今日、全米一の女子体操選手であるのに対して、チェンも全米一の男子フィギュアスケーターで、同じくオリンピックのメダリストだ。チェンは5種類の4回転ジャンプを初めて跳んだスケーターで、このスポーツをより高度な運動競技の領域に引き上げ、ジャッジに新しい難度レベルの判定基準を考案させた。バイルズ同様、チェンも比較的小柄(約168センチメートル)で、かなりの筋肉質である。以下に示すのは、チェンが才能と努力について語っていることの要旨だ。
イェール大生スケーター、ネイサン・チェンの場合
私が思うに、この競技は遺伝的要素が作用することがあると思います。身長、体型、遺伝的な肉体の強さ、それからマッスルメモリー [筋肉の動きを脳に記憶させること]をすばやく強化する能力。でも、それだけじゃない。ほかにも、実際に見ることはできなくて、定量化も困難な遺伝的要素がいくつもあります。
そのなかに、緊張したときに落ち着いていられる能力と、競技中に自分のなかで戦略を立てて、軌道修正する能力があります。私の場合、それは80パーセント天性のものと言っていいでしょう。金メダルアスリートは、それを100パーセントにします――80パーセントが天性(遺伝子と運)で、20パーセントが努力です。
持って生まれたもの(天性)が60パーセントのアスリートの場合、20パーセントの部分(努力)を最大限に引き伸ばさないと、トップクラスの選手(90~100パーセントのアスリート)と競うなど、考えることすら及ばない。だから、天性と努力とどちらが重要かなんて、簡単には言えません。どちらもそれぞれ重要ですが、毎日、どれほど必死で練習を重ねても、遺伝的な素養がなければ、トップに立つのはほぼ不可能でしょう。
チェンが、生まれながらにしてリソースと教育機会に恵まれていることは有益だと気づいて、鋭い洞察で「運」を天性のもののなかに入れていることに注目したい。それを踏まえてチェンは、天性のものと努力の比がどうであれ、自分の選んだ道で頂点に立つには、その両方を限界まで引き上げなければならない、と結論づけている。
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