日露天然ガスパイプラインはなぜ必要なのか 日本のエネルギー安保揺るがす中東の混乱

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このように今回の原油価格急落がもたらす米国とサウジアラビアへの悪影響を考えれば、今後10年以内に中東地域から原油や天然ガスの安定供給が見込める時代が終わり、戦後の日本のエネルギー安全保障体制は大転換を余儀なくされるのではないだろうか。

日露パイプラインに国内外の大物企業が参加

エネルギー安全保障の要諦を「近接」「豊富」「安定」と考える筆者は、今後の日本にとって、ロシアの極東・東シベリア地域の化石燃料の確保が最優先と考えており、その起爆剤としてかねてよりサハリンの天然ガスをパイプラインで日本に供給する構想を主張してきた。

2月19日に自民党の日露天然ガスパイプライン推進議員連盟(河村建夫会長)の会合が開催され、昨年11月に続き改めて「本構想を日露首脳会談の議題にする」旨の決議がなされた。本事業は宗谷海峡や津軽海峡などごく一部の海域を除き、陸上ルート(国道に敷設)で、首都圏までサハリンの天然ガスをパイプラインで輸送し、日本の天然ガス事業の約2割(年間250億立方メートル)を賄うもので、総事業費は約7000億円である。

議連の場で、JPDO(日本パイプライン株式会社)の小川英郎社長から、「詳細調整中」との留保付きながら、本事業を実施するための国際コンソーシアムの内容が初めて明らかにされた。これによれば、新日鉄住金・鹿島建設・東京電力・東京ガス等の国内の名だたる大企業に加え、ロシアのガスプロムや米国のシェブロン・GE、英蘭シェルや伊ENIなど大手資源メジャーの錚々たるメンバーが顔を揃えている。

本事業は「エネルギーの安定・低廉供給」というアベノミクスの4本目の矢として本来位置づけられるものであり、中国の急拡大で不安定化した東アジア地域のパワーバランスを日本とロシアの連携で修正するという地政学的に見ても極めて重要な意義を有している。

ウクライナ情勢をにらみつつ、「早ければ今年3月にもフィージビリテイ調査を開始する」とする小川社長だが、2020年竣工に向けて大きな一歩が踏み出されたと言っても過言ではない。

藤 和彦 独立行政法人 経済産業研究所 上席研究員

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ふじ かずひこ / Kazuhiko Fuji

独立行政法人経済産業研究所・上席研究員。公益財団法人世界平和研究所・客員研究員。1960年、愛知県生まれ。1984年早稲田大学法学部卒。経済産業省(当時、通産省)入省、産業金融・通商政策・エネルギー・中小企業分野等に携わった後、2003年から内閣官房へ出向(内閣情報調査室内閣参事官等)。2011年公益財団法人世界平和研究所に出向。2016年より現職。著書に『シェール革命の正体  ロシアの天然ガスが日本を救う』 (PHP研究所)、『石油を読む―地政学的発想を超えて 』(日経文庫)、『原油暴落で変わる世界』(日本経済出版社)など。

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