"味の見える化"は食品業界を根底から変える 健康管理にも使える味覚センサーの破壊力
このような新技術は、食品・外食産業にどのような影響を与えるだろうか。今回も、入手した情報から示唆を出してみたい。情報は、そこから考えられる「意味合い」まで検討してこそ、初めて価値が出る。
POS(販売時点情報管理)などの消費者属性別の購買データと、「おいしいと感じる数値データ」を突き合わせれば、属性別に最適な味を提示できるようになることは間違いない。
十分なデータが集まれば、仮説検証を繰り返すことで分析結果の精度が上がる。ビッグデータによる解析が進めば、一見して因果関係のないデータ同士に相関関係が見出され、思わぬ発見も出てくる。個人別の「おいしさの数値化」は今後ますます精緻化していく。
一方で、東京医科歯科大学の研究グループによれば、味覚認識できない子どもは3割もいるそうだ。小学1年生から中学3年生まで約350人を対象に調査したところ、「酸味」「塩味」「甘味」「苦味」という基本の4つの味覚のいずれかを認識できなくなっている子どもは31%を占めたという。
普段の食生活が影響していることも考えられるが、この調査結果をふまえると、今後も若者の味覚は鈍くなっていく可能性はある。味覚が鈍くなれば、味付けの濃いものを好むようになり、生活習慣病に繋がるおそれもある。人間の味覚は鈍るが、機械の味覚は鋭くなる。実に「味気のない世界」だが、味覚センサーを起点に味覚のデータ活用が日常化するのは遠くないだろう。
健康管理やポイントカードにも活用
たとえば、「自分がおいしいと感じた料理」を味覚センサーにかけて、そのデータを日々記録する。そうすれば、「自分のおいしさ」の基準が可視化され、味覚がいつ鈍くなっているかが分かる。
「あの日はおいしいと感じたが、今日は同じ料理が味気なく感じる」。このような場合は危険信号だろう。今でも、「疲れている時には濃い味が食べたくなる」と言われるが、味覚センサーを活用すれば、「自分がおいしいと感じるデータ」に基づいて、自身の健康状態を推察することも可能になるのではないだろうか。
次のような日常も予想できる。レストランに入ってポイントカードを店員に差し出す。ポイントカードには個人の味覚データが蓄積されており、店員はそのカードを読み取って、客のおいしいと感じるデータを把握する。料理人はそのデータを忠実に再現することで、見た目は同じハンバーグでも客によって味が微妙に違う、といったことが起こりうる。
さらに言えば、料理を忠実に再現できる「3Dフードプリンタ」が外食業界に普及するような状況になった場合、味覚データを3Dプリンタに入力することで、どの店でも自分が必ずおいしいと感じる料理がでてくるようになる。このように、「自分好みの味の料理」が出てくることが前提になると、「おいしいお店はどこか?」ということの重要性は低くなる。
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