ひろゆきがここまで圧倒的支持を集める納得の訳 過酷な世界を生き抜く為の「価値観の断捨離」に共感

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「引き算型の自己啓発」は、お片付けやミニマリズムから始まったが、両者とも余計なモノを見分けられるようになるための自己変革が必須なことで共通している。余計なモノを捨てることによって、自分の人生にとって大事なものが見えてくる、幸せになれるというロジックなのだが、本当に必要なモノを適切に厳選するためには、一度モノに対する考え方をリセットすることが不可欠になるからだ。それは、ひろゆきの「考え方次第で人は幸せになれる」と似た意識変容の勧めといえる。

「引き算型の自己啓発」の強みは、自分を不自由にしていたり、不幸にしているさまざまな物事を差し引くというシンプルさにある。差し引く対象は、仕事をする時間やちょっとした頼まれごとから、ソーシャルメディアのアカウントまで多岐にわたるが、差し引くことで総じて幸福度が上がると言われれば試してみたくなるのが人情だ。しかも、この自己改革は、「社会的な成功」ではなく「個人的な幸福」にフォーカスされており、人生100年時代と呼ばれる長期戦を巧みに生き残ることが目指されている。

ひろゆきが説く「生存する」ということ

ひろゆきの「考え方次第でラクになることは、スキルとして持っておこう。親も教師も言わないかもしれないが、それが『生存する』ということだ」(『1%の努力』)は、見事なまでに現代という時代に特有の心理的なニーズを掬い取っている。災厄が日常化する世界においてタフな戦士として勝ち抜くのは非現実的だが、流れ弾に当たらないように勝気な「功名心」=考え方は脇に置いて、自分(または自分の家族・友人)を守る「塹壕」=ライフスタイルを作ることはできる。

つまり、どれだけ戦況が悪化しようとも、自分の塹壕だけは破壊されず、1杯の温かいお茶にも無上の喜びを見いだせるかどうかが眼目になってくるのだ。今やこのような自己防衛的なライフスタイルは、YouTubeやインスタグラムなどのフリー教材から学び取り、DIY(自分でできることは自分でやろう!)的な精神によって日夜創出されている。

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暮らしやすさと心身の健康を保つこと、苦ではない仕事とやりがいのある趣味を持つこと――当然ながらこれとて一筋縄ではいかない。自己啓発的な言説を揶揄(やゆ)するのは簡単だが、答えがない世界でどのようなライフスタイルがふさわしいのか、あるいは生きやすいのかを試行錯誤せざるをえないのは、誰であっても同じである。

もし方向性がズレていると感じれば、その都度、軌道修正を行い、あくまで柔軟性の余地を残しつつも、現在のライフスタイルの妥当性を絶えず吟味し続けるほかはない。それは、わたしたちに課された宿命のようなものである。

(文中敬称略)

真鍋 厚 評論家、著述家

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まなべ・あつし / Atsushi Manabe

1979年、奈良県生まれ。大阪芸術大学大学院修士課程修了。出版社に勤める傍ら評論活動を展開。 単著に『テロリスト・ワールド』(現代書館)、『不寛容という不安』(彩流社)。(写真撮影:長谷部ナオキチ)

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