3つの家族の選択の過ちが生む家庭の不和と再生 イタリアの巨匠ナンニ・モレッティ氏の最新作
本作に登場する男性たちは、自分たちの正義にとらわれ、凝り固まっている。それはある種、家族における自分の役割というものにとらわれているとも言い換えることができる。
モレッティ監督は「わたしは、彼らがなぜあのように行動するのか、観客にわかるように描きたかった。監督として彼らに寄り添いたかった。たとえ彼らがどんなに解しがたく、ネガティブな人物であってもね」とその意図を明かす。
それに対して、本作に登場する女性たちは、男たちが選択した目の前の事象に迷い、傷つきながらも、やがて自分たちなりのやり方で希望を見いだしていく。モレッティ監督いわく「破れたものを縫い合わせようとする役割を担っている。彼女たちはわだかまりを解き、相手に近づこうとしている」のだと。
そしてこの語り口は、フェデリカ・ポントレモーリ、ヴァリア・サンテッラという2人の女性たちが、モレッティ監督とともに共同脚本を務めていることにも、影響があるのだろう。
監督初の小説が原作の作品
本作の原作は、イスラエルの作家エシュコル・ネヴォの小説で、テルアビブからローマに舞台を移して描き出している。デビュー以来、一貫してオリジナル作品を手がけてきたモレッティ監督だが、本作はキャリア初の小説原作の映画化作品となる。
「新しいことにチャレンジしたかった」ということと、「この小説で語られるテーマに惹かれた」というモレッティ監督は、「正義・罪・自分たちの行為がもたらした結果とその責任、親であることの難しさ……。こうしたテーマを自分の作品として語れると感じた。だから、原作があっても作り手としての自分の存在が小さくなるという感覚はなかった」と振り返る。
モレッティ監督の多くの作品は、シニカルな視点が色濃く影響する独特なユーモアセンス、そして政治などをからめた時事ネタを織り込むなどして、独自の作品世界を作りあげてきた。
だが海外メディアのインタビューでモレッティ監督は「今回はそんな余裕はなかった。ここにそういった皮肉は通用しないんだ。雑念や脱線のないドライなトーンで、シンプルさを追求する必要があった」と語っている。
そしてこの抑制されたタッチは、モレッティ監督の代表作である『息子の部屋』同様、「少し時間が止まったような作品にしたかったからだ」とも話す。
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