7月に出た2022年度の防衛白書でも、ウクライナで続くロシアの軍事侵攻で採られたハイブリッド戦について複数回の言及があり、対応能力の強化の必要性が示されたばかりであるが、具体的に日本でどのような取り組みをしていくのかについての公の議論はほとんど行われていない。
日本への示唆
能力を強化するには、脅威に対処するための戦略、専門人材の育成・雇用、必要な予算措置が求められる。日本は最近矢継ぎ早にサイバー防衛隊や電子作戦隊、宇宙作戦群を発足させてきたが、今後はそれぞれの専門分野の強化だけでなく、領域横断的な協力体制の確立、演習の実施やハイブリッド戦のわかる戦略人材の育成も求められるだろう。
加えて、国境を越えて攻撃が行われ、被害が広がるサイバー戦については、同盟国や友好国との協力と情報共有が不可欠だ。
こうした取り組みが国内外が支援を受けるには、日本の現在の取り組みと課題について正当に理解されることが前提となる。ところが、日本政府の発信はアメリカなどの海外政府と比べ、かなり少ない。また言葉の壁もあってか、英語のメディアが取り上げることはさらに稀である。
アメリカ陸軍や州兵、アメリカ国防省もおそらく手探り状態で正解が見えない中、演習のシナリオを作り、部隊増強計画を打ち出しているはずだ。それでもメディアや公開の討論の場を通じて自らの努力をあえて公表するのは、仮想敵国を牽制しつつ、国民や同盟国、友好国を安心させ、協力を募るためだろう。
筆者は仕事柄、海外の政府関係者や研究者から日本のサイバーセキュリティの取り組みについて尋ねられることが多い。例えば、日本政府が16年前から分野横断的演習を行っており、官民から数千人規模が参加して重要インフラ防御能力を高めていること、NATOサイバー防衛協力センター主催の国際サイバー演習に、英米とは異なり、防衛省・自衛隊がわざわざ官民共に参加していることを説明すると、感心されると同時になぜそれだけの知見を英語で発信し、世界のサイバーセキュリティ向上に役立てないのか不思議がられる。
ウクライナ情勢を受け、世界的に緊張が高まる中、どの国も試行錯誤しながらセキュリティの総合力を強化していこうとしている。日本には今こそ自らの知見を積極的に共有することで、世界のセキュリティ強化に貢献していくことが求められる。その姿勢を示してこそ、ハイブリッド戦対応に必要な国内外の協力が得られるだろう。
(松原 実穂子/NTT チーフ・サイバーセキュリティ・ストラテジスト)
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