ペロシ訪台への反撃で日本も習近平の攻撃目標に 益尾知佐子氏「ミサイル演習は日本への脅迫だ」

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習主席はこれまで、反腐敗運動で党幹部を悪者にして自分への求心力を高めるといった、日本のテレビ時代劇「暴れん坊将軍」に出てくる徳川吉宗のような手法で求心力を維持してきた。一種のポピュリズムによって政権基盤を作ってきたわけだが、庶民に広がるゼロコロナ政策への反感などでその効果が薄れていた。

またアメリカとの関係が過度に悪化しており、経済回復の展望も描けないことは、習政権を批判する勢力に攻撃の材料を与えていたと見られる。習主席は7月28日のバイデン大統領との電話会談で、台湾に関して問題提起するのと同時に、経済関係の重要性を説いていた。ウクライナ侵攻で国際情勢が緊張しているなかで、ある種の政治休戦を望んでいたと言えるだろう。

ペロシ議長の訪台は、その局面を一気に変えた。この10年にわたり世論を厳しく統制してきた習主席が、今回はネット世界の暴走を放置し、ナショナリズムをむしろあおっている。

経済に責任を持つ地方幹部や都市住民たちはおそらく、ゼロコロナ政策の緩和や海外との経済関係の再建を求めていたはず。ただし、彼らは全体としては中国のエリート層だ。習主席がその主張を抑え込み、国内の政治闘争を有利に戦っていくためには、より広範な大衆にアピールしていく必要がある。反米感情の爆発は、習主席が再び大衆からの支持を得るのに大きな効果がある。中国のネット世論には開戦前夜の雰囲気すらある。

10年前の尖閣問題発生時と似た状況

――ペロシ訪台はタイミングが悪かったということでしょうか。

現在の中国政治の状況は、2012年の日本政府による尖閣3島購入時に似ている。中国の政策決定は、(対外的にみれば)好き嫌いはあれど通常は比較的冷静だ。しかし、権力闘争が激化している党大会前は暴走しがちだ。すべてが国内政争の道具になる。現在はそういうタイミングだ。

ただ忘れてはならないのは、今回の台湾をめぐる米中対立に最初に火をつけたのが中国側だということだ。2016年に蔡英文氏が台湾の総統に就任してから、中国空軍機が台湾島を周回する動きを始めた。蔡氏の側にとくに理由がないのに、中国側が軍事的な挑発を始めた。こうした中国の姿勢に加え、最近はロシアのウクライナ侵攻もあって、中国の台湾への武力行使を国際社会は警戒するようになった。

中国はアメリカに対して、「火遊びをすれば自らを焼くことになる」という脅し文句で台湾への関与を牽制してきたが、それは自分自身に当てはまることだ。

――中国は今後、どのような手段をとるでしょうか。

中国はアメリカとの直接対抗はできるだけ避けるだろう。主なターゲットになるのは、あくまで台湾だと思われる。経済面での措置を含めて、あらゆる手段で台湾へのプレッシャーを強め、中国に対抗する動きを抑え込もうとする可能性が高い。中国では台湾周辺での軍事演習を常態化せよという議論も出ており、そうなれば事実上の台湾封鎖の可能性もある。かなり瀬戸際を歩いている状態なのに、日本で危機感が薄いのは不思議だ。

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