日本で「モーダルシフト」がなかなか進まない背景 声掛けだけで一部でしか実施されていない現状

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しかし昭和40年代、モータリゼーションにともない通運会社は、ストライキで信頼性が低下していた鉄道よりも自社の路線トラックで輸送するようになる。それでは国鉄貨物はじり貧なので、国鉄が自分で貨物を引き受けるようになるが、どれだけが国鉄の営業による貨物なのかは統計がない。

その後、通運事業は、その他の交通モードを含めて貨物利用運送事業として整理され、他社が運行する運送手段を利用して、荷主から受取人に貨物を届ける事業の総称となる。

ヨーロッパでは、中世から貨物の取扱業者(フォワーダー)がいて、荷主は貨物の運送をこの業者に任せ、業者が利用する交通手段を選択した。日本ではトラック運送事業者がフォワーダーの役割を担っている場合が多いので、物流がトラックに偏るのは仕方がないともいえる。

なお、JR貨物には、日本フレイトライナーと全国通運という系列の利用運送会社を持っている。

赤字の元凶とされていた車扱貨物

ただ、貨物輸送量の減少は、国鉄以来の輸送構造の変革、効率的で利益率が高い輸送に経営資源を集中させ、利益率の劣る部門を縮小する経営方針を取った結果でもある。

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もともと国鉄末期には、国鉄の赤字問題は利用の少ない地方ローカル線にスポットライトが当てられたが、赤字額でみるとローカル線の金額はごくわずかであり、むしろ幹線系路線の赤字額が巨額であった。その赤字の元凶は、当時はまだ操車場で列車を組み替えていた非効率な車扱貨物であるとされ、一時は貨物全廃論まで提起された。

結局、コンテナと直行車扱貨物に整理されたが、現在車扱の中心は専用貨物となっている。国鉄からJRに移行した頃は、コンテナと車扱の扱い量はほぼ同じであったが、現在ではほとんどがコンテナとなっている。しかも車扱の一部はコンテナにシフトしたものの、大半がトラックに移り、鉄道の貨物輸送量を減らしてしまった。

佐藤 信之 交通評論家、亜細亜大学講師、一般社団法人交通環境整備ネットワーク相談役

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さとう のぶゆき / Nobuyuki Sato

亜細亜大学で日本産業論を担当。著書に「鉄道会社の経営」「新幹線の歴史」(いずれも中公新書)。秀和システムの業界本シリーズで鉄道業界を担当。

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