究極の道具「VAIO Z」が向かう先とは? 「質」を「量」につなげられるか

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スペックだけを聞けば、無駄に見えるほどの長時間駆動可能なバッテリー容量も、同クラスではワンランク上のプロセッサを採用したことも、また応答性を高めるために内蔵SSDの速度にこだわったのも、あらゆる高スペックは使用者の満足感、感覚性能を高めるために使われている。

0.3秒でスリープモードから復帰することを訴求するVAIO Zだが、数字そのものに意味があるわけではない。道具としては使いたい時にすぐに使え、必要な時にシステムが応答する。そんなユーザーにとっての当たり前が、本当に当たり前に機能するようになると、そうではない製品へとは戻れなくなる。

バズるために足りないものは?

VAIOは日本国内向けに主としてパソコンを開発・販売する小さなメーカーだ。しかしながら、生まれてきた第1弾の製品は、パソコンを必要な不可欠な道具としている消費者の心に触れる要素を持つハードウェアに仕上がっている。ここに新生マイクロソフトのWindows 10が、さらに完成度を高めて乗ってくるならば、まずは日本市場で最初の”バズ”を作ることができるかもしれない。

しかし、同社には圧倒的に不足している点もある。それは消費者とのタッチポイントが少ないことだ。

VAIOはダイレクト販売中心で製品を流通させるが、主にはソニーマーケティングジャパンが運営するソニーストア・オンラインからの通信販売だ。ところが、ソニーストア・オンラインは名前の通り、ソニー製品(+VAIO製品)に特化したショップであり、他社製品と比較検討するユーザーが流れこむオンライン店舗ではない。すなわち、最初からVAIO目的にアクセスするユーザー向けの販売システムと言えよう。

また、新しいVAIOを体験できるリアル店舗は、ソニーストア直営店、ソニーショップ、一部家電量販店の三種類。ソニーストア直営店は東京、名古屋、大阪の三店舗しかなく、量販店での展示もビックカメラ、ヨドバシカメラが中心で、ヤマダ電機は東京・池袋の1店舗のみに留まる。ソニーショップも、上記の展示店舗から遠い地方ではソニーショップが少ないという実態がある。たとえば筆者の実家がある岡山県には1店舗あるだけ、出生地である三重県には店舗がゼロだ。

もっとも、VAIOに焦りはないようである。現在のVAIOの身の丈を考えれば、狭い日本とはいえ、いきなり全国制覇を目指すことではなかろう。絶対的な金額では高めとなるVAIO Zシリーズを購入してくれる一見客はそうはいない。まずはVAIOの価値を信じて購入したユーザーに届けば良いと考えているはずだ。

それは一部のエンスージャスト(熱狂的な)層かもしれないが、一部のエンスージャストに刺さる要素が盛り込まれていれば、その周囲は確実に巻き込まれる。しかし、それだけではまだ”バズ”にはならない。

オリジナル開発製品第1弾として、ひとまずは高い評価を与えられる製品出したVAIO株式会社だが、本当のバズを作るためには”この次”に控えるだろう、アフォーダブル(お手頃)なVAIOだ。VAIO Zの持つイメージを引き継ぎつつも、購入しやすい価格帯の製品。最上位モデルの価値を損ねないものの、単体の製品としてしっかり魅力ある製品。かつてソニーの一部門だった時代のVAIOは、そうしたモデルを作るのが不得手だった。果たして次の課題をVAIOはクリアできるだろうか。

本田 雅一 ITジャーナリスト

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ほんだ まさかず / Masakazu Honda

IT、モバイル、オーディオ&ビジュアル、コンテンツビジネス、ネットワークサービス、インターネットカルチャー。テクノロジーとインターネットで結ばれたデジタルライフスタイル、および関連する技術や企業、市場動向について、知識欲の湧く分野全般をカバーするコラムニスト。Impress Watchがサービスインした電子雑誌『MAGon』を通じ、「本田雅一のモバイル通信リターンズ」を創刊。著書に『iCloudとクラウドメディアの夜明け』(ソフトバンク)、『これからスマートフォンが起こすこと。』(東洋経済新報社)。

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