日本の「重症の民主主義」を再生させる3つの手段 「#投票に行こう」では変わらない現実を変える

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21世紀後半、資産家たちは海上・海底・上空・宇宙・メタバースなどに消え、民主主義という失敗装置から解き放たれた「成功者の成功者による成功者のための国家」を作り上げてしまうかもしれない。

選挙や民主主義は、情弱な貧者の国のみに残る、懐かしく微笑ましい非効率と非合理のシンボルでしかなくなるかもしれない。私たちが憫笑する田舎町の寄り合いのように。そんな民主主義からの逃走こそ、フランス革命・ロシア革命に次ぐ21世紀の政治経済革命の大本命だろう。

構想

だが、逃走はどこまでいっても逃走でしかない。民主主義に絶望して選民たちの楽園に逃げ出す資産家たちは、民主主義に内在する問題を解決しはしないからだ。

では、どうすれば逃走と闘争し、民主主義の再生をはかれるだろうか? 求められるのは、民主主義を瀕死に追いやった今日の世界環境を踏まえた民主主義の再発明である。

そんな構想として考えたいのが「無意識データ民主主義」だ。インターネットや監視カメラが捉える会議や街中・家の中での言葉、表情やリアクション、心拍数や安眠度合い……選挙に限らない無数のデータ源から人々の自然で本音な意見や価値観、民意が染み出している。

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「あの政策はいい」「うわぁ嫌いだ……」といった声や表情からなる民意データだ。個々の民意データ源は歪みを孕んでハックにさらされているが、無数の民意データ源を足し合わせることで歪みを打ち消しあえる。民意が立体的に見えてくる。

民主主義は人間が手動で投票所に赴いて意識的に実行するものではなく、自動で無意識的に実行されるものになっていく。人間はふだんはラテでも飲みながらゲームしていればよく、アルゴリズムの価値判断や推薦・選択がマズいときに介入して拒否することが人間の主な役割になる。人間政治家は徐々に滅び、市民の熱狂や怒りを受けとめるマスコットとしての政治家の役割はネコやゴキブリ、デジタル仮想人に置き換えられていく。

無意識民主主義は大衆の民意による意思決定(選挙民主主義)、少数のエリート選民による意思決定(知的専制主義)、そして情報・データによる意思決定(客観的最適化)の融合である。

周縁から繁りはじめた無意識民主主義という雑草が、既得権益、中間組織、古い慣習の肥大化で身動きが取れなくなっている今の民主主義を枯らし、22世紀の民主主義に向けた土壌を肥やす。

成田 悠輔 米イェール大学助教授・ 半熟仮想代表

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なりた・ゆうすけ

専門は、データ・アルゴリズム・ポエムを使ったビジネスと公共政策の想像とデザイン。ウェブビジネスから教育・医療政策まで幅広い社会課題解決に取り組み、企業や自治体と共同研究・事業を行う。報道・討論・バラエティ・YouTube番組の企画や出演にも関わる。東京大学卒業(最優等卒業論文に与えられる大内兵衛賞受賞)、マサチューセッツ工科大学(MIT)にてPh.D.取得。一橋大学客員准教授、スタンフォード大学客員助教授、東京大学招聘研究員、独立行政法人経済産業研究所客員研究員 などを兼歴任。内閣総理大臣賞・オープンイノベーション大賞・MITテクノロジーレビューInnovators under 35 Japan・KDDI Foundation Award貢献賞など受賞。

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